第5章 今後の課題


6.インターネット社会に備えるためのエル・ネット

常磐大学助教授
坂井 知志
  はじめに
     2003年3月7日の総務省の発表(02通信利用動向調査)によると、わが国の02年末のインターネット利用概要は以下のとおりである。
 利用者は世界2位、6,942万人(平成9年 1,155万人)
 人口普及率は世界10位、54.5%(平成9年 9.2%)対前年比10.5ポイント増
 世帯普及率は81.4%、対前年比20.9ポイント増
 ブロードバンド利用率は29.6%、対前年は14.9%で2倍の伸び
 利用場所は80.1%が「自宅・その他」で4,585万人
 自宅のパソコン利用者のうち31.1%がブロードバンドを利用
 利用上の不安は1位「プライバシー保護」54.1%、「ウイルスの感染」41.4%
 インターネット利用上の被害では20.7%が「ウイルス発見・感染」
 このようにわが国のインターネットの利用は急速に各家庭まで普及している。このような状況の中でエル・ネットはどのような役割を果たしていくのかについて考察してみる。
  1.インターネット(地上回線)との関係
(1)双方向性
    放送番組としてのエル・ネットにおいては学習会場からの質問、複数会場からのレクチャーなど双方向性を手軽かつ安価に実現するためには、地上回線のテレビ会議システムかインターネットを活用するのが現時点で一番合理的な方法といえる。

  (2)インターネット学習の支援
     学習者への支援
 ・ 技術研修
 3.でも詳しく述べるが、インターネットの普及にはさまざまなデバイドが存在する。それを解消するためにはその時点のデバイドに即した研修内容を的確に実施していく必要がある。
 学習提供者への支援
 ・ 学習提供者への技術研修
 公民館職員や学校の教員には、今後さまざまな教育上の技術やソフトの利用方法など、いわゆるスキルアップが求められる。そのことを実現するためには中央からだけでなく、各地での教育実践を研修という形で提供することが望まれる。
 ・ 学習方法の研修
 メディアを活用した学習がさまざま増えていく中で、そのメディアの特性を活かした学習方法を検証しつつ提供していく実験的な場が必要となる。インターネットがブロードバンド化することが見込まれた平成10年度にエル・ネットがテレビ並みの映像と音声を確保するため6M下り回線を確保した理由はそこにある。そのような能力はインターネットの一層の改善により、近未来、各家庭まで届けられることとなるであろう。
 そのときに備えるために、メディアを活用した集合学習の方法、個人学習の方法、集合学習と個人学習を合わせて提供する方法などを開発することが求められている。
  2.コンテンツ作成の低廉化と高品質化の両立
     国民すべてが発信者になりうるインターネット社会は、品質が多様となる。そのため従来のプロとしての画像製作などの基準がそのまま適用される場面とそのようにはならない場面とが混在することとなる。これらが何処で切り分けられるのかは、その時点で判断されることではあるが、お互いに刺激しあい高めていく関係をつくっていく必要がある。つまり高品質の番組製作はプロの役割であり、多くの学習者を抱えなくては維持が不可能である。そのためには、内容上もマスの学習者が期待されるものとなる。
 逆に映像としてはあまり洗練されていないものでも一定の学習者を確保できるものは素人でも発信可能となる。しかし、映像としての最低の品質は確保されていなくては学習活動の維持は不可能となる。
 これらの二つのものを両極に置きながらインターネットを利用した学習は展開されると思われるが、そのときに備えて映像製作の方法を常に開発してその普及を図る必要がある。

  3.デジタルデバイドへの対応
    「はじめに」で述べた総務省の調査によると、世代別インターネットの利用は、
 
6歳  ―  12歳 52.6%
13歳  ―  19歳 88.1%
20歳  ―  29歳 89.8%
30歳  ―  39歳 85.0%
40歳  ―  49歳 75.0%
50歳  ―  59歳 53.1%
60歳  ―  64歳 32.8%
65歳以上 9.9%
  

年収別では200万円未満が45.6%。
性別では男性68.3%、女性55.9%。
都市別では政令指定都市・特別区67.8%、その他の市部60.8%、町村部53.8%。

  まとめ
     今年度のモデル事業の取り組みから今後のエル・ネットの役割をみると、特に大切と思われるものは、今の時点では次の二点と思われる。
 学習形態・方法の開発
 将来、地上回線のインターネットで行われる学習を予想しつつわが国で行われる学習形態や方法に関する品質を向上させるための役割。
 デジタルデバイドの解消
 年齢や年収・地域におけるデジタルデバイドは今後とも存在し続けるであろう。それらを埋めるためには全国に一定の学習活動を確保していく体制を整備することが求められる。学習者が新たなメディアを活用した社会教育活動を展開していくためには、そのようなことを理解した社会教育施設職員の確保が必要であり、その研修をエル・ネットは提供し続けることが公的な役割として求められ続ける。

 このような役割をエル・ネットが果たし続けるためには、わが国のメディアを利用した学習のトップランナーであるための品質の確保、簡単にいえば高速回線の確保と学習形態・方法の開発のためには開発費の確保がエル・ネットには求められ続ける。