第5章 今後の課題


5.エル・ネット利用の可能性を探る
−公立視聴覚センターからのメッセ−ジ−
全国視聴覚教育連盟事務局長
松田  實
  1.はじめに
     全国各地に、設置されている公立視聴覚センター・同等施設は、合わせて51か所で公立視聴覚センター連絡協議会をつくり、独自の視聴覚教育研修会を開催してきた。昨今、生涯学習の場においてもIT化の波が押し寄せていることから、活動の力点をITと融合した視聴覚メディアの研究・研修におき、新たな活動を展開している。
 その一環として、第6回視聴覚教育総合全国大会大阪大会(平成14年10月24・25日)において、「エル・ネット利用の可能性を探る」と題したフォーラムを実施した。提案者にはエル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業を既に実施した、青森県総合社会教育センター及び石川県立社会教育センターにお願いし、公立視聴覚センターとして、今後エル・ネットを多様な学習機会の一つとして活用するには、どのような配慮や工夫が必要か、そのために、公立視聴覚センターの持つ研修機能・制作機能・教材提供機能等が役立たないか、検討した。
  2.わかりやすい講座&学びやすい講座
     「オープンカレッジ」は、エル・ネットの特色を巧みに生かして、大学の優れた講座を取り上げ、大学ならではの優れた内容の講座を提供するものであり、受講者のニーズを考えた遠隔公開講座として放送している。
 よい遠隔公開講座とはなにかと考えるとき、一つは教える側の立場ともう一つは学ぶ側の立場の二つの切り口から考える必要がある。
独自企画の重要性
 今回の、青森県と石川県の二つの発表を聞いていると、ある共通点に気がつく。それは学ぶ側といっても、どちらもエル・ネットを自県の社会教育事業とどう結びつけるか企画性の優れたところである。
つまり、二つの県の企画者は、「オープンカレッジ」を、それぞれ自県独自の事業「あおもり学講座」、「石川県民大学校大学院」の講師養成講座と組み合わせた独自の講座として企画していることであろう。
それぞれの反省として、講座企画がいかに重要であるかを取り上げている。

Q.三重県:「連続講座が多く、日ごとにだんだんお客が減ってしまう。できれば1回で終わるような単発の講座を増やして欲しいのですが・・・。」

A.提案者:「単発講座・連続講座の両方がある。繰り返しできる単発講座では、いろいろな素材を提供する、ということが考えられる。学校教育・社会教育に限らず、子育て、ITなどの5分程度のいろいろな素材を提供することができる。

 90分の講座は、よっぽどのインパクトがないと、視聴していただくのは難しい。そのような授業では、たとえば、料理の授業をやったら、会場で実際に料理をやったり、会場で話し合ってもらったり、という授業方法をやらないと、長期間(長時間)、授業を受けることは難しい。1回限りの講座でも、長期連続講座でも、それぞれ工夫の余地がある。」

学びあう集団づくり
 よく、集団の学習から個の学習へといわれる。一人一人の学習ニーズを考えればその通りであるが、人間である以上、学ぶ意欲という心情の問題が付きまとう。グループを組むことによって、お互いが教えあい学びあう人間関係というプラス効果が期待できる。そのため、いろいろな学びあう形態づくりを念頭に置くべきであろう。

Q.静岡県:「エル・ネットの講座をやったときに、個人では参加しにくいので、学習グループに声をかけることがある。学習グループには、どのようにして声をかけて、番組の計画を立ててもらったらいいか?」

A.提案者:「青森県では、『あおもり県民カレッジ』の単位認定の講座であるということで、受講生を募集した。自分たちが自主的に講座を組み立てて、即自分たちが受講者となってやろう、という前提だった。教育事務所については、担当者が管内の町村の担当者と連携して、受講生を募集した。」

双方向性確保についての工夫

Q.福岡県:「講座の中で双方向性を確保することは重要なポイントのようだが、青森県の講座では、各会場からの質問は受け付けたのか。」

A.提案者:「青森県では、平成13年度の淑徳短期大学講座の際に行った。4日間のうち2日間、メイン会場の2会場で、テレビ会議システムを使った双方向の質疑応答を行い、残りの4会場で、メイン会場とファックスで結んで質問した。メイン会場は、毎日変えた。受講生は、メイン会場からは直接質問でき、その他の会場からは、ファックスで間接的に質問することができた。」
 双方向性は、情報通信ネットワークの特性で、青森県の「オープンカレッジ」でも、さまざまな工夫をして双方向性を成立させようと努力している。なかなか技術的な面で満足のいくものとはなっていないようであるが、前述のように、インターネットをはじめとする情報通信ネットワークが、爆発的に普及した理由の片側には双方向性がある。
 一方向性の情報送信システムならば、今までの放送となんら変わることがない。仮にネットワーク上でも、リアルタイムで講師に質問ができたり、名指しで回答してもらえることは、まさにエル・ネットの貴重な価値であろう。
 しかし、なかなか理想どおりにはいかないもので、「オープンカレッジ」を生かすも殺すも、ここに企画者がどのような知恵を働かせるかにかかってくる。

C体験学習との融合
 青森県・石川県とも、地域の主催事業と「オープンカレッジ」を、巧みに融合して利用している。たとえば、VSAT局として、実際に講師の話を聞き、地元の情報通信ネットワークを通じて他の会場に配信し質疑応答を行う、あるいは「オープンカレッジ」を視聴して、さらに地域の実践者の体験談を聞くなど、実技を行うなどの工夫をしている。

Q.静岡県:「施設で『子ども放送局』を視聴できるよう開放しているが、なかなか子どもが集まらない。施設でどのように活用されているか。」

A.文部科学省:「県や施設の独自の事業と組み合わせた形で、そのなかで活用していく形がある。成功例としては、子どもの居場所作りとして『物作り教室』をやり、その中で『子ども放送局』を活用する、などの例がある。また、親子で参加できるような事業と組み合わせる例もある。」

(2)教える側の立場を考える
 ここでは、講義の内容の問題よりも、その内容をいかに伝えるかという側面から、考えてみる。成人を対象とした「オープンカレッジ」等では、そう問題にならないかも知れないが、講義を一つのコミュニケーションと考えれば、視聴者に対して伝える工夫が必要であろう。
 巧みな話術と板書で、十分に表現し伝えることができる場合もあろうが、やはり講師としては、いかにわかりやすく伝えるかを考えて、コミュニケーションの道具(メディア)を使うことも大切である。しかも、ただ使えばよいのではなく、使い方を工夫することが必要である。

教育方法の工夫

Q.千葉県:「講座を行う大学などの先生は、受講者を考えて、講座内容をわかりやすいように組み立てているのだろうか。表現の仕方(プレゼンテーション)に、もっと工夫があってもよいのではないだろうか。」

A.提案者:「エル・ネットを使って、今までの視聴覚教育がやっていたように、テレビ画面を見ている方々に、わかりやすく資料を提示することが大切で、最前列しか見えない資料提示は工夫の余地があろう。
エル・ネットの受信施設は、大小さまざま。プレゼンテーションの仕方については、インターネットをやっている先生の方が、やや配慮に欠ける傾向がある。配慮をした資料提供とは、なにもパワーポイントを使えばよいということではない。
 OHPの手法は、文字の大きさや配置などに配慮があったが、みなさん簡単にそれを捨ててしまっている。日本の大学教員の教育手法については、小・中学校の先生の方がレベルが高い。遠隔教育についての教育方法の開発・手法を大学の先生も工夫しないと、エル・ネットの質は高まらない。」
 このような教育方法の問題は、視聴覚的方法という角度から見ても、小・中学校の授業でも意識が乏しくなっているようで、愛知県の指導主事は次のように述べている。
 「大学の先生がプレゼンテーションの仕方を学習する必要がある。長年、視聴覚教育では、OHPの文字の大きさや提示方法などについて研修をしてきた。
 しかし、コンピュータの個別利用が浸透して、全体を対象としたプレゼンテーションの基本に注意を払わなくなってしまった。しかも、プレゼンテーションについては、指導者も指導しなくなってきているのが現実であり、改めて、現場の先生を含め、私たちも、よりよい提示方法を考えなければと思う。」

講師と受講者を結ぶ指導者
 学習の仕方の工夫も当然必要であるが、会場にいる現場のリーダーや指導者が、実際にどのようにして講師と学習者とを融合、マッチングをさせていくか、この役割が極めて大切である。「青森県では、指導者養成という点について、どのように考えているのだろうか」という質問に対して、青森県の提案者は「放送されたものを受けて、地域の方に提供するわけだが、地域の社会教育担当者がその間に居る、という意識を高めていくことが必要。県の立場としては、県内にある受信施設の担当者にモデルを示す、ということで参加している。『県でシステムを作っていくこと』と、『それを地域担当者に伝えること』との2つがうまくいかないと、いくら大学の先生にいい放送をやってもらっても、そこで止まってしまう。」と述べている。
 石川県でも、「提示された教材を、私たちがどう使用するかが大切であり、企画する側が具体的に検討していかなければならない」という考えを述べており、改めて、講師と受講者を結ぶ指導者の役割が問われている。

  3.おわりに
     基本的な問題として、素材をどうやって教育界、学校教育・社会教育に送っていくのか、ということをエル・ネットでやっていくべきであろう。また、文部科学省のいろいろな施策や法律改正があったときに、一度だけの通知ではわかりにくいものである。
 ここにも、エル・ネットの存在価値がある。
 それは、県の方に主管部課長会議で集まって、また教育事務所単位でやっていくと、当然情報が不明確になる。直接、文部科学省の説明を受けた方が正確な判断ができる。
 いま、情報の産地直送が始まっているとも言える。
 県も市町村も、いままで与えられた役割を見直さなければならないと考える。その実証実験がエル・ネットである。
 また、コストと質の問題を考えると、大学での自主制作を考えなくてはいけない。その場合、ぜひ地元の視聴覚センター等と連携しながら、大学は発信していくことが必要と考える。当然、エル・ネットだから、どういう内容が必要なのかを話し合いながら、郷土の大学だけでなく、遠くの大学と組むという方法も一緒に協議しながら考えていく必要があろう。
 いずれにしろ、エル・ネットは市町村から国までのシミュレーション。具体的な提案をし合う場。いかに運用し、システムの悪いところは、指摘していく。そして、それだけでなく提案をしていく場でなくてはならない。