第3章 モデル事業 3.事例


(9)「エル・ネット高度化推進事業」モデル事業の事例報告
〜講座「日本文化の源流を探る」の実施を通じて〜
宮崎・島根エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業実施委員会
(宮崎大学生涯学習教育研究センター)

はじめに
 ここでは、「エル・ネット高度化推進事業」の一環として行った公開講座「日本文化の源流を探る〜日向と出雲の神話と芸能〜」の実施を通じて得られた成果と今後の課題についてまとめることにする。
 
1.趣 旨
   本事業では、宮崎大学と島根大学の連携を中心に、宮崎と島根に伝えられる神話や伝統芸能(主に神楽)の分析を通じて、公開講座「日本文化の源流を探る〜日向と出雲の神話と芸能〜」を制作した。本事業のねらいは、この講座の制作、放送を通じて、地域素材のプログラム化および講座編成の在り方と課題を明らかにするとともに、特定の受講会場と通信システムを結んで双方向による質疑応答を行い、学習成果への影響、今後の受講方法等の在り方について検討することである。
 
2.委嘱事業の内容
(1)講座プログラム
  本事業では、別記のような全5回の講座を実施した。
「日本文化の源流を探る〜日向と出雲の神話と芸能〜」プログラム
 
講 義 名
講  師
放送日時
放送形態等
日向神話みられる日本文化 山田利博
(宮崎大学教授)
平成15年
1月18日(土)
13:00〜14:40
録画放送、片方向
出雲神話にみられる日本文化 藤岡大拙
(島根県立女子短期大学学長)
1月25日(土)
13:00〜14:40
録画放送、片方向
出雲の神楽・芸能にみられる日本文化 白石昭臣(
前島根県立国際短期大学教授)
2月1日(土)
13:00〜14:40
録画放送、片方向
日向の神楽・芸能にみられる日本文化 山口保明
(宮崎県立看護大学教授)
2月15日(土)
13:00〜14:40
ライブ放送、片方向
<パネルディスカッション>
日本文化の源流を探る
全講師(
上記)
2月15日(土)
15:00〜16:40
ライブ放送、テレビ会議システムによる双方向
  この講座の主な特徴として、次の点があげられる。
1)
異なる二つの地区の大学が、それぞれの地域で共通する日本神話、神楽などをテーマにして連携した講座であること。
2)
全5回とも宮崎市のVSAT局から全国に放送したこと(第1回から第3回はすでに収録したものを録画放送、第4回、第5回はライブ放送)。
3)
第5回の講義では宮崎の放送会場と島根の会場をテレビ会議システムで結び、それを活用して島根の講師がパネリストとして参加したこと。
4)
第5回の講義では、放送会場と宮崎県内の3会場および島根県内の1会場をテレビ会議システムで結び、ライブで質疑応答を行ったこと。また、全国の受講会場からファックスによる質問も受付け、ライブでその回答を行ったこと。
5)
神楽についての学習の理解を深められるように、事前に収録した島根県でみられる神楽の演舞を映像資料として取り入れた(第3回)。また、第4回の講義では、地元の神楽保存会の方による神楽の実演を行い、いっそう臨場感のある放送をライブで行ったこと。
6)
講座の一部を放送大学の面接授業の一部と合同で実施した全国で初めての試みであったこと(第4回、第5回の講義)。
   
  (2)調査研究
  上記の講座の制作、実施を通じて、主に以下のような点について調査研究を行った。
 
1)
共通テーマのもとで異なる二県の地域素材をプログラム化する視点、方法について
2)
講座内容、音声(音質)、映像(画質)と受講者の満足度の関係について
3)
県及び市町村教育委員会との協力方法について
4)
オープンカレッジの有料制の在り方について
5)
地上系通信メディアを用いた質疑応答の在り方について
6)
遠隔地を結んでの双方向型のパネルディスカッションの在り方について
 
3.実施経過
   (1)事業実施スケジュール
平成14年10月下旬
宮崎・島根両地区の協議会代表者及び講師による第1回検討会議
11月上旬
宮崎・島根各地区における第1回協議会
11月中旬
収録方法、質議の方法等についての具体的な検討
12月下旬
第1回〜3回までの講義を収録
平成15年1月中旬〜
講座放送(2月中旬まで)
2月下旬
宮崎・島根各地区における第2回協議会
2月下旬
宮崎・島根両地区の協議会代表者による第2回検討会議
 
 
(2)講座受講および受講会場の概況
 
 宮崎地区と島根地区では異なる受講の方法をとった。宮崎地区では受講者は本講座のみを受講するという方法である。一方、島根地区では、エル・ネット「オープンカレッジ」の学習メニュー化が図られ、本講座がその1つに位置付けられた。受講者にはその中の1つの講座として本講座を選択して受講してもらうという方法をとった。
 また、宮崎地区、島根地区の各受講会場と受講者の状況は以下の通りである。
 
宮崎地区:
宮崎市教育情報研修センター(放送会場)/60名(第4回、第5回のみ放送大学受講者29名がこれに加わる)、宮崎県立図書館/13名、南郷町南郷ハートフルセンター/9名 えびの市えびの市民図書館/24名、日向市日知屋公民館/40名 合計146名(放送大学分を含めた合計175名)
島根地区:
島根大学・松江市生涯学習センター・松江市城北公民館/45名、江津市教育委員会・和木公民館/15名 頓原町頓原公民館/26名、掛合町公民館/27名、石見町中央公民館/9名、西郷町中央公民館/7名(以上島根県)、会見町立公民館/8名、西伯町中央公民館/5名(以上鳥取県) 合計 142名
 さらに、このうち島根大学・松江市生涯学習センター・松江市城北公民館での受講者については、試験的に受講料の課金を実施した。
 
4.成果と今後の課題
(1)事業の成果
   <講座プログラムについて>
 1)2つの地区が連携したプログラムの在り方について
 5回の講座のうち、日本文化にみられる「神話」および「神楽・芸能」という2つの具体的なテーマについて、それぞれ宮崎、島根の各地区の講師による講義を設定し、最後の第5回目には全講師によるパネルディスカッションを行った。このプログラムにより、受講者は宮崎と島根にかかわる神話、神楽と芸能についての内容を詳しく学習ができたようである。また最後に行われたパネルディスカッションでは、各講師による講義のまとめとともにファックスやテレビ会議システムを使って寄せられた質問に回答する時間を長く設けたことが、内容の理解、まとめにも役立ったといえる。なお、両地区が連携したことについて、約85%の人が「よかった」あるいは「まあまあよかった」と感じている(宮崎地区調査)。

 2)ライブ放送、神楽の実演について
 ライブ放送と録画放送のちがいは、放送会場においても講師や受講者等が緊張感をもって一体となった形で講義、学習が進められること、またその緊張感や臨場感がそのまま遠隔地の受講会場に伝わること、ファックスやテレビ会議システム等での質問に即座に回答できるという点などがある。これらについて考えると、特に、第4回の講義では神楽の実演がライブで行われ、演舞の緊張感と迫力が教室全体を包み、また、そうした雰囲気がテレビ画面を通じても感じ取られたようである。
 また、テレビ会議システムで質疑応答を行ったことは、遠隔地の受講会場においても参加型の学習が行えたという点で意義があった。ただ、ファックスによる質問については、すべてには答えることができなかったことは課題として残った。

 <講座運営について>
 3)県および市町村教育委員会等との連携について
各地区の県教育委員会、受講会場または受講会場管轄の市町村教育委員会およびVSAT局のある宮崎市教育情報研修センターの職員には、本事業実施委員会の各地区協議会の委員を務めていただき、組織的に受講者の募集、受講会場の提供、運営等で協力いただくことができた。こうした自治体等と大学との協力関係では、一方的な協力関係では継続が難しく、双方がともにメリットを享受できるような協力関係の在り方が求められると思われる。

 4)放送大学との一部共同による実施について
 本講座の第4回、第5回の講義の宮崎市教育情報研修センターでの受講は、放送大学宮崎学習センターが行っている面接授業の一部と共同で実施した。エル・ネット「オープンカレッジ」が放送大学との連携で実施されたのは全国的にこれまでには例がなく、初めての試みであった。このような形態による実施によって、受講者にとっては、いつもと異なった人々との学習で学習の輪が広がったのではないかと思われる。また、放送大学の受講者が神楽の実演を見て学習できたことは、それぞれ単独での実施では実現しなかったことである。
 この試みは、放送大学とエル・ネット「オープンカレッジ」の連携の可能性を探る端緒となったのではないかと思われる。これが可能となったのは、放送大学や文部科学省等の関係者の方々のご理解が大きいが、プログラム編成に関わる要因をあげるとすれば、第一に両者の講義内容に共通点を見出せたこと、第二にここでの2回の講義がライブでの放送であったことである。今後、さらにこのような連携を考えるとすれば、実現を可能とさせる条件を明らかにしていくことが必要だと思われる。

 5)オープンカレッジの有料制の在り方について
 (受講料の課金についての調査の主な結果)
 有料制に対する意識
受講料の課金をしていない宮崎地区および島根地区の一部におけるオープンカレッジ有料制に関する調査結果によると、「払ってもよい」という人は宮崎では第1回終了時には70.0%、最終回終了時には81.0%、島根(島根地区の調査結果は中間集計による、以下同じ)では61.1%であった。
 受講料について
 一般的な講座の1回当たりの受講料としては、「500〜999円」が各地区の調査で最も高くなっている(宮崎38.7%、島根では「500円」が48.5%)。
 また、今回の講座1回ごとにどのくらいの受講料を払うことが可能かどうかについて毎回調査を行ったが(宮崎地区)、「500〜999円」が最も多く上記と同様の結果であった。さらにこれを講義内容のわかりやすさとのかかわりでみると、「わかりやすかった」という人では、いずれの回も「500〜999円」が最も比率が高いものの、「わかりやすかった」という人ほど支払い可能額が「1000〜1499円」とする人の比率が高い傾向がみられた。
 有料制になったときに期待すること
 宮崎と島根の調査で調査項目に若干の違いはあるが、宮崎では「事前に内容をわかりやすく示す」(59.5%)、「テキストを事前に配布する」(34.5%)、「テキスト等の内容を充実させる」(31.0%)などが上位を占めている。島根では「より充実したテキストが提供される」(69.7%)、「著名人の講師による講義が提供される」(42.4%)などが高くなってる。

 <通信システムについて>
 6)ISDN回線によるテレビ会議システムの利用
宮崎市の放送会場と宮崎県内(3ケ所)と島根県内(1ケ所)の4つの受講会場をISDN回線によるテレビ会議システムで結び、これを用いて島根からもパネリスト2名が登場し、またそれぞれの会場の受講者から質問を受付けた。テレビ会議システムを活用した双方向の講義形態については、約55%の人が「とてもよかった」あるいは「まあまあよかった」と考えている(宮崎地区調査)。しかし、各受講会場からのテレビ会議システムを通じた音声が、衛星通信を経由して放送されたときに聞き取り難い場面があり、受講者からも音質レベルの向上についての希望があった。

 7)遠隔地を結んでのパネルディスカッションの在り方について
 放送会場と他の会場を結ぶ通信システムが地上系の通信(ISDN回線等)であれば、通常の容量では画質レベルには限界があり、それ通じた長時間の視聴は学習内容の理解や継続の妨げにもなる。できるだけ学習意欲をそぐことなくパネルディスカッションが行えるような条件や必要事項について、今回の実践を通してわかってきた。例えば、遠隔地からの講師には話題の流れによって常に登場できるようにすること、テレビ会議システムによる質議応答の際には放送会場と遠隔地の受講者の質問を交互に行うこと、放送中でも相手先と連絡がとれる回線を確保しておくことなどの留意点があるように思われる。こうしたことが明らかになれば、たやすく遠隔型のパネルディスカッション、シンポジウム、講演会の実施運営に役立つのではないだろうか。

   
(2)今後の課題
   1)地上系メディアの可能性について
 今回は地上系メディアとしてISDN回線を利用したテレビ会議システムのみの活用であった。現在はブロードバンドによるインターネット会議システムなども双方向通信メディアとしての可能性がある。今後、どのような地上系メディアが有効かについて幅広く検討していきたい。

 2)テキストの配布方法、文字等について
 テキストの完成が講座の直前ということもあり、講座当日の受付で毎回配布する形をとったが、受講者からは予習をしたうえで受講したいということから、事前に配布することへの希望が多く見られた。郵送になると経費のことがあるが、印刷が早めに終わっていれば、講座出席時に次回のテキストを配布することも可能である。テキスト配布については、Web による配布もすでに行われている。今後、どのようにしてテキストを事前に配布するかを考える必要がある。
 また、受講者は60歳以上の比較的高齢の方が多いため、経費のこともあるが、テキストの文字の大きさについても配慮していきたい。

 3)講座のPRについて
 宮崎、島根の各地区において、また、各受講会場において講座案内のチラシを作成して講座受講者の募集にあたった。また、地元新聞、および全国紙の地方版にも講座の案内が掲載されたこともあり、予想を越える申込みがあった。宮崎市では、予定していた会場で定員に達したため、急遽、別の会場でも受講できるようにした。
 今回の受講者には地元で観光ボランティアをしている方々がグループで申込み、受講されている様子がみられた。受講者の募集では、講義のテーマを考慮しながら関係する機関やグループに呼びかけることも1つの方法ではないかと思われる。このほかにも、効果的なPRの方法を明らかにしていくことが課題である。

 4)オープンカレッジの有料制について
 今回の調査研究では意識調査を主としてオープンカレッジの有料制について検討したが、今後は試験的に有料の講座を実施しながらこの点について検討していきたい。