第3章 モデル事業 3.事例


(1)秋田県エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業
  『トライアングル「家庭・学校・地域」子どもを育てよう』を開催して
エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業実施委員会
(秋田県教育庁生涯学習課

1.趣 旨
  エル・ネット「オープンカレッジ」の視聴(千葉大学公開講座)を活用し、双方向性をもった講座の可能性を探り、より高度で専門的な学習機会を提供する講座運営の有効性を検証する。
 
2.実施体制
  「エル・ネット受信施設」を中心にして、施設関係者、受講者代表からなる「秋田県エル・ネットオープンカレッジモデル事業実施委員会」を構成する。実施委員会はエル・ネット「オープンカレッジ」を利用した公開講座の企画・実施・評価を行う。
 
3.公開講座の日時・講座・会場
 
日 時 平成14年12月13日(金)10:00〜12:00
講座名 「トライアングル『家庭・学校・地域』子どもを育てよう」
講 師 千葉大学 教授 明石 要一(あかしよういち)
会 場 秋田県総合教育センター(メイン会場) 受講者 69名
  鷹巣町中央公民館(サブ会場) 受講者 23名
  増田町ふれあいプラザ(サブ会場) 受講者 33名
 
4.実施内容
  国立科学博物館と秋田県総合教育センターの間でVSAT局同士の双方向講座を実施する。
 
5.送受信の概要
 
東京(国立科学博物館)から発信した衛星放送を、メイン会場(秋田県総合教育センター・・・VSAT局)とサブ会場(鷹巣町中央公民館、増田町ふれあいプラザ)で受信する。
サブ会場からの質問をFAXでメイン会場に寄せる。
メイン会場からの質問およびサブ会場から寄せられた質問をメイン会場で取りまとめて講師(東京)へ質問し、講師からの回答を各会場で受信する。
 
6.実施の概要
(1)エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業実施委員会
   モデル事業実施にあたり、講座開設担当者16名、学習者の代表4名からなる実施委員会を組織し、講座運営全般について協議した。協議内容としては、受講者の募集、広報活動、質問方法、当日の運営、アンケート調査の実施、技術研修会等について話し合われた。会議の中で、学習者の代表である委員から講義の内容が家庭教育の分野であるため、小さな子どもさんを持つ親の参加が見込まれるので、各会場とも託児の準備が必要との意見が出され、子育て支援センターのボランティアグループに託児の要請をした。
 また、本県では初めて実施される事業であり、放映に関しての技術的な分野において不安が大きかったため、事前に秋田県総合教育センターのスタッフを中心にして、衛星通信活用技術研修会を開催した。この技術研修会を実施したことにより、当日の運営がスムーズにできた。
   
(2)講義の流れ
   講義時間の120分を有効かつ効率的に運用するために、講義を3つの分野に分け各20分の講義にしていただいた。1回の講義の後、10分間の質疑応答の時間を設け、受講者と講師との質疑応答に充てた。また、間に10分間の休憩を入れ、リフレッシュの時間を設けた。3回目の講義終了後に10分間の質疑応答し、最後に20分間講義全体のまとめをしていただいた。このまとめの中でも活発な質疑応答がなされた。
   
(3)当日の状況
   エル・ネットおよびオープンカレッジの概要、当日の進行、著作権の説明等のため受講者の集合時間を放送開始30分前にしたが、受講者は、ほぼその時刻までに集合した。受講者の中にはエル・ネットの存在そのものを知らない方もおり、子ども放送局や大学公開講座に関心を示す方も多かった。
 また、通常のテレビ放送と違って、放送開始前の「ただいま受信されていない」旨のテロップしか流れない時間帯は「本当にはいるのか」「どんな具合にはいるのか」等の質問もあり、やや緊張気味の雰囲気の中で始まった。サブ会場では、降雪のため放送開始直前までアンテナの雪払いに追われたところもあった。
 講座が始まるとメモを取りながら熱心に受講する姿が見られた。講師の明石先生の巧みな話術と独自の論理の展開で受講者が講師の話に引き込まれていく様子がよく分かった。
 講話が進むにつれ、講話内容に反応がでて笑い声もあり、リラックスした雰囲気で熱心に聴き入っていた。司会者の臨機応変な対応もあり、全体を通じてうなづきあり、笑いありの終始和やかな感じであった。聴講後は「とてもためになった」「またこんな講座があったら受講したい」「2時間という時間の長さを感じなかった」といった感想が多く聞かれた。
 
(4)双方向性のあり方について(サブ会場からの質問にFAXを使用したこと、メイン会場・サブ会場の受信等について)
   明石先生の講義を録画ではなく、生放送で実施したことによって、和やかさや具体性が出て、とてもよい番組になった。双方向性の利点は、リアルタイムの質疑応答だけでなく、その雰囲気も伝えてくれるところにあり、臨場感あふれる内容であった。
 また、今回はサブ会場の質問については、FAXをメイン会場で受け付け、司会者がFAXに書かれた質問内容を伝える方法をとったが、概ね、順調にいった。ただ、サブ会場では双方向性がないことで、その場での質問機会や講師とのやり取りをする機会がなく残念であった。そういう意味では、例えばサブ会場にテレビ電話を設置し、画面にサブ会場の参加者が映るようにするなど、双方向性を生かしたリアルタイムの送受信という点で、サブ会場における臨場感をいかにして向上させるかが課題であろう。メイン会場においても、その場で質問・意見を出すことは、なかなか難しく、このような「リアルタイムな放送を通じた学習形態」についての学習者の理解がより一層必要と思われる。
   
7.成果と今後の課題
   実施にあたっては、放映に関する機器操作の不安や受講者の確保など、いくつかの問題点を抱えてのスタートだったが、モデル事業実施委員会や技術研修会の開催を重ねることによって運営をスムーズにできた。
 課題としては、まずはエル・ネットついての周知が挙げられる。本県では、ほとんどの市町村および教育機関において、子ども放送局での活用しかされていない現状を考えると、エル・ネットについて理解を図り視聴機会を増やすなど、全県的な活動をすすめることによって、県民に周知させる必要がある。ただ今回実施したことより、エル・ネットの存在、オープンカレッジ事業についての理解を図る上では、貴重な機会であったことは確かと言えるだろう。受講者は家庭教育に関わるグループ・サークルや各社会教育関係団体等に所属している方々が大多数であったが、口コミ等でエル・ネットのことが広がる可能性もあると思う。エル・ネット「オープンカレッジ」を多くの方に知っていただき、情報通信技術を活用した生涯学習についての理解を得ながら、その活用促進に結びつけたい。
 また、生放送での放映のため、カメラ・音声・操作卓等の機器操作に専門性が要求されたが、ほとんどの職員は一度も操作したことはなく、技術研修会を1回行っただけで実施した。今後は専門的知識を得ながら、年に数回の研修を行い、常時操作可能な状態に熟練する必要性があるだろう。
 生放送という点では、講師と受講者との間に双方向性を持たせる意義は充分にあるが、互いの質疑応答の事前予想がとても難しく、今回は講義のレジュメをあらかじめ受講者に配布して、ある程度の質問を準備したが、双方向性をもたせるために、すべてがリアルタイムで公になる電波以外の方法も併用して行う方法を考える必要性を感じた。
 本県では、発信機能を持ったVSAT局が、生涯学習関連施設にはなく、主に学校教員の研修施設である県総合教育センターにあり、今回は県総合教育センターの施設を活用した。一般県民を対象にした学習機会の提供に、両者が協力できたことは大きな成果であった。
本事業終了後、県生涯学習センターでは、エル・ネット「オープンカレッジ」の大学公開講座の視聴を中心とした講座を開催したが、こうしたことから、エル・ネット「オープンカレッジ」の大学開放講座を活用して、高度な内容の学習講座開催の可能性が高まったと言える。


受講風景 [メイン会場:秋田県総合教育センター]

受講風景 [サブ会場:鷹巣町中央公民館]
   

受講風景 [サブ会場:増田町ふれあいプラザ]

託児風景 [サブ会場:増田町ふれあいプラザ]


秋田県エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業
エル・ネット「オープンカレッジ」 千葉大学公開講座
受講者アンケートと調査結果

Q1 「放送番組」の進み方はあなたにとって速かったと思いますか、遅かったとおもいますか?
 
1…
遅かった
2…
どちらかというと遅かった
3…
適当であった
0(0%)
2(2.1%)
90(92.8%)
4…
どちらかというと速かった
5…
速かった
 
5(5.1%)
0(0%)
 
   
Q2 放送された内容で聞き逃したと思う箇所はありましたか?
 
1…
まったくなかった
2…
少しある
3…
かなりある
56(57.7%)
41(42.3%) 
0(0%)
   
Q3 放送された内容で再視聴したい箇所はありますか?
 
1…
まったくない
2…
どちらかというと合っていない
3…
適当であった
32(33.0%)
54(55.7%) 
11(11.3%)
   
Q4 放送で使われた各種演出(字幕やパネル、取材映像)は、講義内容に合っていましたか?
 
1…
まったく合っていない
2…
どちらかというと合っていない    
0(0%)
2(2.1%)    
3…
どちらでもない
4…
どちらかというと合っている 
5…
よく合っていた
12(12.2%)
30(31.0%)
54(55.8%)
   
Q5 放送中に登場した講師や出演者の話し方について、どのように感じましたか?
 
1…
遅かった
2…
どちらかというと遅かった
3…
適当であった
0(0%)
2(2.1%)
90(92.8%)
4…
どちらかというと速かった
5…
速かった
 
5(5.1%)
0(0%)
 
   
Q5 放送中に登場した講師や出演者の話し方について、どのように感じましたか?
  Q5−1 話し方について
1…
聞き取りにくかった
2…
どちらかというと聞き取りにくかった
 
0(0%)
1(1%)
 
3…
聞き取れた
4…
よく聞き取れた
 
29(29.9%) 
67(69.1%)
 

Q5−2 内容
1…
わかりにくかった
2…
どちらかというとわかりにくかった
 
4(4.1%)
2(2.1%)
 
3…
分かりやすかった    
 
91(93.8%)    
 
   
Q6 画面が単調だと感じましたか?
 
1…
まったく感じなかった
2…
少し感じた
3…
単調だった
66(68.0%)
27(27.9%)
4(4.1%)
   
Q7 日ごろ、教養・教育番組(テレビ)をどれくらいみていますか?印象でお答えください。
 
1…
まったく見ない
2…
時々見る
3…
よく見る
4…
連続して見ている番組がある
0(0%)
65(67.0%)
26(26.8%)
3(3.1%)
   
Q8 「視聴された放送番組」について、良かった点や改善点など気づいたことがありましたらご記入ください。
  Q8−1 良かった点
 別記

Q8−2 改善点
 別記
   
Q9 本日の講座のような,衛星通信を利用した遠隔講座について,受講に際して受講料が必要だとしたら,受講したいと思いますか。
 
受講したいと思う。   Q9−1−1 と Q9−1−2へお進みください。
70(72.2%)        
受講したいと思わない。 Q9−2−1  と Q9−2−2へお進みください。
27(27.8%)
     
   
(1と回答した場合)
  Q9−1−1 受講料は1回(100分程度の講義)あたり,いくらぐらいが妥当と思われますか。
a.
500円以下
b.
1,000円
c.
1,500円
d.
2,000円
e.
2,500円
f.
3,000円以上
32(45.7%)
33(47.1%)
2(2.9%)
2(2.9%)
1(1.4%)
0(0%)

Q9−1−2 どのようなサービスを希望しますか。(複数回答 可)
a.著名人の講師による講義が提供される。
39(55.7%)
 
b.講師との質疑応答の機会が確保される。
37(52.9%)
 
c.より充実したテキストが提供される。
26(37.1%)
 
d.修了証の発行や生涯学習単位の認定が行われる。
14(20.0%)
 
e.資格を取得する際に利用できる。
12(17.1%)
 
f.大学の正規の単位が取得できる。
8(11.4%)
 
g.その他
1( 1.4%)
 
   
(2と回答した場合)
  Q9−2−1 どのようなサービスが付加されれば,受講料を支払っても良いと思いますか。(複数回答可)
a.著名人の講師による講義が提供される。
11(40.7%)
 
b.講師との質疑応答の機会が確保される。
8(29.6%)
 
c.より充実したテキストが提供される。
10(37.0%)
 
d.修了証の発行や生涯学習単位の認定が行われる。
6(22.2%)
 
e.資格を取得する際に利用できる。
7(25.9%)
 
f.大学の正規の単位が取得できる。
11(40.7%)
 
g.その他
0( 0.0%)
 

Q9−2−2 上記のようなサービスが付加された場合,受講料は1回(100分程度の講義)あたり,いくらぐらいが妥当と思われますか。
a.
500円以下
b.
1,000円
c.
1,500円
d.
2,000円
e.
2,500円
f.
3,000円以上
13(48.1%)
6(22.2%)
1(3.7%)
4(14.8%) 
2(7.4%)
1(3.7%)
   
Q10 最後にあなたについてお知らせください。
 
性 別
  41(42.3%) 56(57.7%)

年 齢     20歳未満 20歳代 30歳代 40歳代
  0(0%)   10(10.3%)  23(23.7%) 33(34.0%)
  50歳代      60歳代      70歳代以上  
  14(14.4%) 15(15.5%)  2(2.1%)  
   
(別記)
  Q8−1・Q8−2
身近な問題を分かりやすく講話していただき聞きやすかった。
先生が目の前にいるような親近感のある講義でした。
講義内容が家庭・地域・学校にすぐ役立つものであり、それを分かりやすく具体的に説明していただいた。
子ども・地域・家庭を取りまく状況の変化を明確に理解することができた。また講話が楽しく、分かりやすかった。
明石先生のお話のうまさ、面白さ、内容に満足した。
適度に笑いをとり、話に引きつけて飽きさせない明石先生はさすがでした。
旧人類の一人として明石先生の講話はかなり共感できた。20分きざみの講座がとても良かった。
お話がとても分かりやすい。明石先生のお人柄、研究の深さの賜と思う。まとめの司会者もじょうずだった。
ホワイトボードを使用した点と、質問に対する応答が大変よかった。
2時間の講座を3つに分け、20分ずつの講座にしたことがうまくいった要因だろう。
資料が事前に準備されていたこと、また話術にもすぐれていて、分かりやすかった。
インターネットから今日の講義の要旨が分かっていたので、分かりやすかった。社会・学校・子どもがかわったと思っていたが、それが納得できる形で話していただいて良かった。
地域外の講師の話を聞けて大変良かった。
双方向性と内容を3つの区分にした点や時間配分も適切だった。
画像がすっきりしていて臨場感があった。
ユーモアがあって受講者をあきさせない内容で分かりやすかった。
テキストが分かりやすく、話のポイントがしっかりしていた。問題点の指摘にとどまらず、解決策を提示していた。
講師のお話が難しい用語もなく、とても分かりやすかった。内容がよく、ぐっと引きつけられた。
このような形式の講義は普段経験できないので、大変よい体験をした。
肩をはらず見聞できよかったです。
先生との間に隔たりを感じることなく受講できた。
質問の答えがすぐかえってくる点など双方向性の特徴がでて有意義な講義だった。
学校・地域・家庭がそれぞれの役割分担をする・・・・・全く同感です。家庭や地域社会そして日本の世論は学校に頼りすぎている。そして学校(教師)は自らの力を過信して引き受けようとしている。そんな感じがします。すべての子どもたちの成長について、いっしょに考えていかなければならない。
身近にありそうな例を入れながら、分かりやすく話していただいて面白かった。
聞く人の心をとらえ、話の内容が分かりやすかった。
会場とのやり取りに臨場感があった。
講師の先生のウィットに富んだ分かりやすい内容で、うなづきながら視聴できた。
家庭教育の見直しについて、考えさせられた。
初めてのエル・ネット視聴であったが大変分かりやすく勉強になった。
ポイントが適切で解説が分かりやすい。
講義内容に具体的な事例が盛り込まれており、聞いていて納得できる内容であった。
講話全体が大変分かりやすく、もっと多くの一般の人にも聞いてもらいたいと思った。
講義の内容は飽きさせることのない良い内容であった。
簡単明瞭な講話であった。地域・家庭のかかわりの大切さを強く感じた。
子育て中の者として、日々なにげなく過ごしておりましたが、変わりゆく社会の中でいろいろな心がまえを教えていただき、よいヒントを得た講話だった。
 
(秋田県教育庁生涯学習課社会教育主事 瀧澤徳彦)