第1章 4年目のエル・ネット「オープンカレッジ」
高等教育情報化推進協議会 推進委員会座長
齋 藤 諦 淳

1.経 緯
   マルチメディアは時間的、空間的な制約をこえて多数の人々に多様な学習を可能にする。また活用の工夫によっては、視聴者の主体的な学習活動を支援する手段として利用できる。こういう考えから、文部省(当時)の生涯学習審議会では平成11年の「学習の成果を幅広く生かす」という答申に「新たな情報通信手段を活用した高等教育機関等による学習機会の拡充」という項をもうけ、衛星通信を活用した公開講座の拡充を提言した。

 生涯学習審議会はさらに平成12年に「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」の答申を出し、エル・ネットの活用方策を提言した。

 エル・ネット高度化推進事業として行っているエル・ネット「オープンカレッジ」はこの方針から始まったもので、今回で4年目をむかえ、この次の15年度にまとめの年となっている。

 実は、この事業には前史があって平成8年度から10年度までの3年間にわたり実施された「衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業」があり、つづいて平成11年度から13年度までの3年間実施された「教育情報衛星通信ネットワーク高度化推進事業」があり、エル・ネット「オープンカレッジ」はこれらの成果を踏まえたものである。
 
2.エル・ネット
   ところで、エル・ネットとは何かということについて、ここで簡単にふれておこう。これは、平成11年度からスーパーバードB号という衛星を使用している教育情報衛星通信のネットワークである。
技術的にはVSATというネットを利用し、これはベリー・スモールなアンテナで受信できるという特色がある。また回線の制御はHUB局という中央局で行うため、各々の子局に無線従事者が不要であるという便宜がある。このため、教育の分野で文部科学省をはじめ教育、学習の関係者に各種のプログラムを提供したり、相互に情報交換するのにまことに便利である。

 もともと衛星通信放送は、サービスの広域性や同時性などの特徴をもっているが、通信衛星放送の中でもこのVSATは、多数、広域、同時に情報を普及、交換するのに、大変有効なシステムなのである。

 エル・ネットは、国立教育政策研究所をHUB局とし、そのほかVSAT局と称している送信および受信の機能を有する施設がある。これは文部科学省をはじめ、国立科学博物館、国立オリンピック記念青少年総合センターや全国の教育センターなど35箇所に設置されている。このほか、受信機能のみの施設が全国に2,093箇所にあり、格段に多くの人々が番組を受けることができるようになっているのである。番組を受ける2,093の施設は、教育センター、教育委員会事務局、生涯学習センター、公民館、図書館、博物館、青少年教育施設、文化会館、学校などと実に多岐にわたっている(施設数は平成15年3月末日現在)。

 このような特徴をもっているVSATを利用して、教育に関するあらゆる情報を提供するネットワークとして「エル・ネット」(教育情報衛星通信ネットワーク)が平成11年7月から運用が開始されたのである。

 エル・ネットが活用されている分野を、大ぐくりしてみれば4本の柱とすることができる。
 1つは大学公開講座を放送するエル・ネット「オープンカレッジ」
 1つは土曜日に文部科学省の「全国子どもプラン」等に対する一環として行う「子ども放送局」
 1つは教育研修センターの全国の教職員に対する研修プログラム
 1つは文部科学省ニュース、文書の送信、会議やセミナーなどの内容の放映
 などである
   
3.エル・ネット「オープンカレッジ」
   エル・ネット「オープンカレッジ」の事業は、このような教育の情報化事業の一つである。これは、衛星通信放送を利用して、大学の公開講座を公民館などの社会教育施設に放送し、生涯学習の機会を広げようというものである。

 平成11年度からのエル・ネット「オープンカレッジ」の大学公開講座の数は次のようである。
 平成11年度  27大学 30講座 123講義
 平成12年度  50大学 54講座 172講義
 平成13年度  46大学 53講座 154講義
 平成14年度  53大学 57講座 116講義
 このような、衛星通信放送を利用した「オープンカレッジ」の事業の母体となっているのは、「高等教育情報化推進協議会」であり、文部科学省から「教育情報衛星通信ネットワ−ク高度化推進事業」として委嘱(平成14年度は委託)を受けて行っているのである。
   
4.委嘱(委託)事業の内容
   生涯学習審議会の平成12年11月の答申では、大学等の公開講座を全国に提供するシステムの運営を確保するため、種々の具体的な事項に言及している。

 「衛星通信チャンネルの確保、種々の情報の収集・提供、番組の企画・利用にかかる助言・援助、受講料の徴収・配分、テキストの送付等のサービスをおこなう」ことなどである。これら生涯学習審議会の掲げる事項を視野に入れつつ、生涯学習の一つの重要な分野である大学の公開講座を広めるために、衛星通信放送をどう有効に使うか、具体的に調査研究することがこの事業の目的である。

 この報告書では、4年目にあたる14年度の事業について報告することになるが、最初に「オープンカレッジ」全体の実施状況を見て行き、大学が独自に収録した事例や、双方向の実践例等について報告する。そして、今回は10地区についてモデル事業を指定したが、その成果についても報告することとしている。

 この実践的調査研究が、遠隔大学公開講座を実施する大学、およびそれを利用する機関や受講生にとって参考となるとともに、この報告書全体が、今後いよいよ発展する衛星通信放送の教育界での利用が全国的に展開されるためのひとつの糧となることを期待したい。