.委員による提言

1.これからの生涯学習ネットワーク・システムについて
山本 恒夫

1. 本研究成果を生かした生涯学習の可能性
   平成15年度の本調査研究で示された新たな情報機器活用による学習交流の可能性や、この平成16年度の調査研究で示されたeラーニング・システムによる在宅学習の可能性、eラーニング・システムによる学習者間ネットワークの可能性をみると、高度情報通信技術の活用による生涯学習の可能性は急速に拡大されてきているように思われる。

 それに伴い、生涯学習支援の仕組みも従来のモデルを再構築し、新たなモデルとすべき段階に来ているのではないだろうか。

 これまでのところ、生涯学習支援システム・モデルは1980年(1)、1989年(2)、1998年(3)の3回にわたり提出してきており、それぞれ若干の修正を加えながら使ってきた。1998年のモデルはマルチメディア・ネットワークを導入した生涯学習支援システム・モデルである。ここでの提言は、本研究の成果を生かし、それに学習者間ネットワークを加えたモデルを提出しようとするものである。
   
2. これからの生涯学習ネットワーク・システム
   2年間にわたる本研究の結果をみると、生涯学習にあっても学習者個人間のネットワーク(学習者ネットワーク)を作ることが容易になりつつあり、今後、急速にそのようなネットワークが拡がっていくように思われる。

 このような学習者間ネットワークは、参加や脱退が自由であり、参加者の独立性、個性を尊重しながら、交流を行うものであり、情報が横に伝わるとともに、参加者すべてが参加者であるばかりか、参加者間をつなぐ役割を持つという特徴がある。

 これは、従来からの生涯学習支援システムの枠や空間的制約をこえ、その外側に自由に作られていくことになるであろう。

 従来からの生涯学習支援システムにこの学習者間ネットワークが加わると、それは、生涯学習支援システムというより、生涯学習支援と個人の生涯学習を含めた生涯学習ネットワーク・システムになっていくのではないかと考えられる。

 それをモデル化したのが、図1の生涯学習ネットワーク・システムである。

図1 生涯学習ネットワーク・システム
生涯学習推進センター機構
生涯学習関連機関・施設・団体等の提供する学習場所・機会、遠隔講座、 学習用機材・データベース、などのネットワーク
学習成果の評価・認定サービス機関 :(希望者に対してのみ)修了証、単位、免状、資格等の付与、評価の互換、累積加算、認定などを行うサービス機関
学習者
t1 伝統型学習(講座・教室、クラブ・グループ活動、実験、実習、見学など)の機会等の提供とその利用
高度情報通信技術を活用した生涯学習機関等ネットワーク
高度情報通信技術を活用した学習者間ネットワーク

 この中の「高度情報通信技術を活用した生涯学習支援システム」は従来のモデルと同じで、今回新たに加わったのは、その外側の「高度情報通信技術を活用した学習者間ネットワーク」である。そのような学習者間ネットワークはこの2年間の本調査研究でも取り上げられ、また各地に出現しつつあるので、改めて例をあげ、説明するまでもないであろう。

 このような学習者間ネットワークが加わったからといって、図1の
高度情報通信技術を活用した学習者間ネットワーク

が停滞したり、不活性になってよいということではない。生涯学習機関等のネットワークについては、従来通り、次のような項目に関してのネットワーク診断を絶えず行って、活性を保持するようにしていかなければならないであろう。
  • 指向性

    ネットワークでの学習資源開発や生涯学習支援サービスの目指す方向が人々のニーズや地域の課題に応えられるようになっているか

  • 可逆性

    各メンバーが資源提供・受容の両方共に可能なネットワークになっているか

  • 保存性

    各メンバーの資源提供と受容のバランスがとれているか

  • 活性

    資源交換が停滞しないようなネットワークになっているかどうか

  • 充足性

    資源交換の需要がどの程度充足されているか

  • 迅速性

    資源交換にかかった時間について


最後に、このモデルで特徴的なことをあげておくと、学習者が、
「伝統型学習(講座・教室、クラブ・グループ活動、実験、実習、見学など)の機会等の提供とその利用」
高度情報通信技術を活用した生涯学習機関等ネットワーク
高度情報通信技術を活用した学習者間ネットワーク

という三重のアークを持っているということである。

 これは、従来にも増して、時空の制約に縛られることなく、学習がしやすくなることを意味している。

 これからは、さらに、このような時空を超えた新たな学習の可能性を探って行く必要があるように思われる。


(1) 「生涯教育のシステム化」
(日本生涯教育学会年報第1号『生涯教育の展開』、ぎょうせい、1980)
(2) 「生涯学習推進体制構築の視点」
(伊藤俊夫・山本恒夫編著『生涯学習推進体制の構築』生涯学習講座1、第一法規出版、1989)
(3) 「高度情報化にともなう新しい生涯学習支援システムの構想」
(共著論文、日本生涯教育学会論集19、1998・7)
  ■拙稿「新しい時代に適合した生涯学習のための教育・学習システムの必要性−情報コミュニケーション技術(ICT)を活用した地域の生涯学習支援システム−」(財団法人日本視聴覚教育協会編『メディアを活用した生涯学習活動の促進に関する調査研究』同会、2000・3)で提出した「マルチメディア・ネットワークを導入した生涯学習支援システム・モデル」はこれを若干修正したものである。