.生涯学習におけるeラーニングの活用事例


実践事例1.企業研修


 NTTレゾナント株式会社では、インターネット上の各種サービスを軸とした事業を展開している。eラーニングは、1999年に前身であるNTT−Xが設立されたときから、NTT研究所で開発されたノウハウをベースにビジネスとして取り組んできた。この間の経験から、学習者がeラーニングで効果的かつ継続的な学習を行うためにはさまざまな課題が存在し、それに対する工夫が必要であることがわかってきている。以下では、このような課題と、実践事例における対応を紹介する。

1. 効果的なeラーニングを継続するための課題
   eラーニングを実施する際の課題としては、「教材の作成コスト」、「学習管理システムの導入・維持管理体制の不備」、「PCやネットワークの設備の機能・性能不足」といったものもあるが、最大の課題は「学習者の学習意欲を維持して学習効果の高い学習を実施するのが非常に難しい」という点にある。eラーニングの典型的な形態であるWBT(Web-based Training)による学習では、以下のような原因で学習者が学習意欲を失う可能性が非常に高い。
  • 数時間から場合によっては数10時間におよぶ教材をひとりで学習する必要がある。教材の構成・内容をいかに工夫しても、このような長時間に渡る自己学習を完遂させることは非常に難しい。

  • 教材の学習目標・レベルが、学習者のニーズ・興味・知識レベルに合わない可能性が高い。学習者のニーズや興味は千差万別であり、全ての学習者に適合する教材を準備することは困難である。

  • 学習者は学習した内容を試すことができない。演習問題などを用意することはできるが、一般にeラーニングによる学習は知識の詰め込みになりがちで、学習した内容を実践して学習を深化させる機会を設けることは難しい。

  • 疑問やアドバイスのやり取り、自分の進捗具合を比較・確認する仲間や指導者がいない。仲間との協同や競争は学習意欲を維持する上で重要な要素となるが、eラーニング環境ではこのような状況を作ることは必ずしも容易ではない。
   
2. 実践事例
   本節ではいくつかの実践事例を、前節で述べたような課題の解決がどのように図られているか、という観点から紹介する。

(1)資格取得研修実践事例
 本事例は企業におけるIT系ベンダ資格取得研修にeラーニングを適用した事例である。
 IT系資格取得研修は、従来の集合研修でも数日から一週間に渡って行われる分量があり、eラーニング教材でも数10時間の分量になることは珍しくない。従って、できるだけ多くの学習者が最後まで研修を完了するような方策を立てることが必須となる。このため本実施例では、以下のような流れの研修構成とした。
  • 受講者選抜:基本的に希望者には受講させるが、必要な知識レベルを満たしている者を優先的に受講させる。

  • テキスト配布:研修開始前に紙のテキストを配布し、受講生が事前に研修内容を確認できるようにする。

  • 導入セミナ(1日)の実施:研修開始にあたり、衛星回線講義システムによる導入セミナを行い、研修の進め方、心構え、などを徹底するようにする。

  • WBTによる自己学習(12週間)の実施:通常のeラーニング教材による学習を行う。しかし、学習意欲の維持のため、講師による質問回答、システムトラブルに対するヘルプデスク、FAQページなどを設置する。また、教材内容に関する質問メール(Qメールと呼ぶ)を定期的に送信し、受講生の回答状況を確認して、意欲を持って学習を継続しているかどうかをチェックする。

  • 受験直前セミナ(1日、受験1週間前)の実施:研修終了時に衛星回線講義システムによる受験対策セミナを行い、最後のまとめとする。

 以上のような施策を行うことで、受講者 3,686名に対して、最終的な資格合格率60.2%、受講費用は集合研修の1/4の約5万円/人という結果を得た。

(2)新入社員研修実践事例
 
本実例はSIベンダにおける新入社員に対する技術教育の事例である。新入社員教育では、受講者の技術に関する事前知識、スキルレベルが千差万別であり、画一的な集合教育では一部の受講者のニーズしか満たせず、大半の受講者は学習の興味を失ってしまうという問題がある。そこで本事例では、事前に学習者全員に対してスキルレベル診断の試験を実施し、 用意された数100種の教材ライブラリの中から個人のレベルに合致した教材を選択して受講させるという方法を採った。これによって、学習者の意欲向上を図ることができた。また、eラーニング化により、自主的に学習を行う姿勢の定着、研修実施結果把握の容易化という効果が得られた。研修実施の様子を写真に示す。教材は個別であるが、一箇所で他の新入社員と一緒に学習し、先輩社員にいつでも質問できる、という環境を作っている。


(3)販売チャネル研修実践事例
 本事例はコールセンタの販売担当者向けの営業スキル研修である。営業スキル研修では、頻繁に更新される商品知識を販売担当者が理解し、顧客の購入につながる説明を行うスキルを身につけなくてはならない。また、顧客が商品を購入した成功事例、購入に至らなかった失敗事例を商品企画担当者が収集・分析して、新たな販売戦略立案、商品開発につなげることも重要な課題である。そこで、本事例では、
  • 朝5〜10分間、商品知識・説明スキルに関するテスト型のeラーニング学習

  • 夕方、当日の顧客対応状況の振り返りアンケート


 を毎日反復する研修を行った。10程度の事例で延べ約8万人の受講者に対して研修を実施した。約700名に対するある事例では、以下の表のような学習結果を得た。この事例では、研修結果を毎日の業務で実践し、その日に振り返りを行う、というサイクルを繰り返すことで研修効果を高めている。また、他の約1,500名に対する研修では1ヶ月間で約4,000件の、販売に関する課題抽出・提案が得られた。このように経営に対する貢献という面でも効果の高い研修となっている(「販売チャネル研修」の概要については、次頁を参照)。

表 受講者694名、1ヶ月間の研修に対するアンケート
商品知識 十分身につき、実践でも役立っている 76.9%
身についたが、実践では役立っていない 19.4%
身につかなかった 3.7%
提案スキル 十分理解でき、営業活動で実践している 88.2%
理解できたが、営業活動で実践できていない 11.1%
理解できなかった 0.8%

(NTTレゾナント株式会社  ポータル事業本部ビジネスPF事業部ラーニングポータル部門長プラットフォーム部門長兼務 仲林 清)
   
実践先からの報告「販売チャネル研修」
   
実践先の概要
 
  • NTT東日本株式会社、NTT西日本株式会社の各支店およびサービス提供関連会社


  • ブロードバンドインターネット回線販売担当者向け研修


   
eラーニングシステムを活用している実践の規模
  NTT東日本株式会社の場合、管内17地域の支店、サービス提供関連会社で研修を実施
   
受講者数
  延べ約80,000人(2004年3月時点)
   
導入経緯
   ブロードバンドインターネット市場はNTTをはじめ、電力系電話会社、独立系電話会社など複数社の競争が激化している状況であり、営業販売力強化のためにeラーニングを導入した。
   
経過
   2003年1月より運用を開始した。地域により取り組み状況は異なるが、季節ごとの販売キャンペーンに合わせて年に3〜4回実施する支店もある。
   
運用体制
   毎日の業務の中で、朝・夕の決められた時間に業務に携わる全員で実施するため、ブレンディング、メンタリングは行っていない。夕方のアンケートで得られたフィードバックを翌日以降の設問や次回の研修に反映している。
   
課題とその方策
   出題する設問の作成、再利用に手間がかかるため、問題をデータベース化し、インデックス付けのためのメタデータを付与して管理するようにしている。

(NTTレゾナント株式会社ラーニングポータル部門担当部長 木山 稔)