.調査研究にあたって

1.調査研究の意義と目的
山本 恒夫

 この調査研究は、最先端の情報機器を利用し、いつでも、どこでも、情報を入手して学習することができるようにするために、新しい情報機器の活用方策を探ろうとするものである。財団法人日本視聴覚教育協会では、平成14年度より平成16年度まで、文部科学省の委託を受け「情報化社会における学習資源提供の在り方に関する調査研究」を進めてきた。

 昨今のめざましい情報通信技術の発達にともない、先端的な各種電子媒体の研究開発が進み、学校教育・社会教育・家庭教育等の教育現場においても、これらの各種電子媒体を活用した教育・学習実践が定着して行われてきている。

 その顕著な例として、学校には、ほぼコンピュータとインターネット接続が行き渡り、情報通信技術を用いた学習を進めるようになった。情報通信技術の支援によって、教室内だけの学習に止まることなく、学校外の世界に散在している学習資源を即時に幅広く取り入れたり、学習成果を海外に発信したりすることも可能となった。

 また、生涯学習の分野においても、情報通信技術の活用例としてよく知られるようになったeラーニングの実践によって、新しい学習活動がネットワーク上で出現し始めた。この学習活動によって、社会人が働きながら自分自身の研鑽のために幅広い学習を進めるだけでなく、地域内での学習コミュニティを形成し始めている。

 しかし、現状では、情報通信技術を利用する際の技術や、情報通信ネットワーク上に蓄積されている多量の学習情報が、それを求める学習者に社会的な資源として幅広く活用される形には至っていない。そのため、基盤となるシステム・ツール・応用ソフトウェアを整備し、コンテンツを制作・蓄積・編集・流通させるための環境を築くことが必要である。さらに、それらと組み合わせて各種電子媒体を活用するためのさまざまな手立てや学習資源提供の在り方が重要となり、生涯学習をすすめる個人や学習グループ、これらの学習者で構成される学習コミュニティへの具体的な支援の在り方も、幅広い見地から検討されるべき時期に来ている。

 本研究は、このような社会的背景を考慮して、次々と開発されている情報通信技術を用いた各種の教育機器・デジタル教具・応用ソフトウェア・ツールなどの開発と活用の現状について、学校教育、社会教育、企業内での実践事例を基に先端的な取組みの諸事情を調査検討するものであり、生涯学習社会を構築する観点から学習資源の選択・創造・発信・蓄積・共有の循環を生み出すために、新しい情報機器の活用方策を探ってきた。さらに、国内での情報通信機器の開発状況や教育における取組み事例だけでなく、情報通信技術利用や生涯学習の先進諸国における具体的な活用事例についても実地調査を行った。

 本年度は、本研究の最終年度として、情報化社会における学習資源提供の在り方について総括的な検討も行った。特に、情報通信技術を用いたさまざまな学習活動を取り入れているeラーニングに着目し、企業内教育や生涯学習での活用の在り方、学習コミュニティの運営方法など、新たな生涯学習の展開方法についての知見や検討結果をまとめ、報告するものである。