. 海外訪問調査

英国調査報告
渋谷 英章

8. BritishEducationalCommunicationsandTechnologyAgency(BECTA−英国教育コミュニケーション技術エージェンシー)

[訪問日]2004年3月5日
[面談者]Mr. David Prescod、Project Manager,NLN Materials Development Team(写真14)

 BECTAは教育技能省傘下の政府機関であり、学校教育と成人コミュニティ学習におけるICTの利用のための実際的な研究・開発を行っている。ここでは特に全国学習ネットワーク(NLN―National Learning Network)の教材開発に関して担当者に話を伺った。NLNは英国の成人コミュニティ学習におけるILT(Information Learning Technology)の活用を図るために1999年に開始された。NLNはネットワーク・インフラストラクチャーやさまざまな支援プログラム、情報提供と研修、そしてILT教材の提供を行ってきている。この5年間に政府は15,600万ポンドをこのプログラムに投じている。これまでは継続教育カレッジ等を主たる対象としてきているが、今後は成人コミュニティ学習や職場での学習に活用されることになっている。

 NLNの教材の内容は、読み書き算やコミュニケーションなどのベイシック・スキルズから、農業、美術、ビジネス、飲食観光などのサービス業務、工学、環境保護、家庭経営、保健・医療、科学・数学、スポーツ・ゲーム・レクリエーションなど多岐にわたっており、これらの教材に継続教育カレッジの教員、学生はインターネットを通じてオンラインでアクセスできる。NLNのWebサイトにアクセスし登録すれば、さまざまな教材を使って学習を行うことができ、また教材に関する最新の情報を入手できる。教員に対しては学習指導に利用する際のアドバイスを提供するシステムも用意され、またダウンロードも可能であり、各カレッジや地域の状況にしたがって教材を再編集することも認められている。なお、教材の開発にあたっては、BECTAがその基準や使用を定め、作成は民間企業に委託している。実際の教材は、スモールステップで分かりやすい解説と練習問題で構成され、内容によってはコンピュータのロール・プレイング・ゲームのような手法も取り入れられ、インタラクティブな学習を進めることができる。また、この教材のCD−ROMも作成配布されており、オンラインではない利用も可能である。ただし、学習者が必要なスキルズを獲得することを目的とする学習ソフトという性格が明確であり、学習者の間でのインタラクションや学習者自身の教材開発へのコミットメントという発想は見られなかった。
写真14 David Prescod氏
むすび

 英国の生涯学習におけるICTの利用に関しては以下の点が指摘できるであろう。
回線の整備状況やコンピュータの普及状況から、各家庭で個人がインターネットにアクセスして学習するというよりも、学習機関等でのコンピュータ利用による学習が一般的であり、そのための条件整備が課題である。
上記の事情から、オンラインでライブの学習プログラムを配信するというよりも、オンデマンドでの学習資源・プログラムの利用、あるいはCD−ROMを利用した学習プログラムの提供が幅広く行われている。また、そのためにICT教材開発の体制が整備されている。
16歳以上の後期中等職業教育が十分ではないという英国の教員課題を反映し、幅広く基礎的なスキルズや職業的スキルズを獲得させるためにICTの利用が考えられている。
さまざまな関係機関・団体のパートナーシップにより、とくにその資金獲得をめぐって、複雑なシステムで、ICT利用に関する多様なプロジェクトが展開されている。
ICTの利用が、人々の間での情報の獲得や意見の交換などを通じて、多様な社会における市民性の確立に貢献することが明確に認識されている。