. 社会教育における情報機器活用調査

1.調査の概要
中山 実
原 義彦

2.情報機器について

(1)社会教育で利用される情報機器に関する本委員会での検討
   社会教育における学習者のニーズを検討したところ、最新の学習機器の利用に関する学習では映像処理に関するニーズが高いことが話し合われた。特に、動画像の処理に対するニーズが高い。社会教育の学習においても、動画やインターネットで情報提供できるようなコンテンツ作成に関する内容に、学習者や社会教育施設側のニーズがあるとした。

 また、社会教育における社会教育施設の役割やその施設がある地域での地域性、さらにその地域間での交流の重要性が議論された。特に、異なる地域での社会教育活動について、お互いがその共通性や差違を認識し、相互に持つ情報そのものが学習資源であるとした。その上で、社会教育における地域間交流の重要性を改めて確認した。このような交流と学習を支援する方法として、エル・ネット、掲示板システム、協調学習システム、テレビ会議システムなどの活用も検討された。さらに、社会教育の観点から、地域間での非同期の交流や情報交換、さらにデジタルコンテンツの交流などの活動を支援できる情報システムを検討した。

 これらの検討の結果、今年度については、次項で述べるような情報機器、情報システムを用いて社会教育における活用の可能性を実証実験することにした。

(2)利用可能な情報機器について
  社会教育で広く利用できると思われる情報機器について、簡単に説明する。
1)多機能デジタルカメラ
    基本的な機能
 光学レンズとCCD撮像素子で構成されるもので、基本的な光学系はこれまでの銀塩フィルム式カメラと同じである。フィルム式のカメラでは、撮影された映像は現像して印画紙に印刷するまで可視化できなかった。多機能デジタルカメラでは、ビューワである液晶画面に撮影後に確認できることから、欲しい画像を収集することが容易になった。

 また、画像はJPEGなどの静止画像ファイルとして、メモリ媒体でカメラ本体からいつでも取り出すことができる上、複写したりパソコンでの画像編集ソフトで加工したり、Webブラウザで閲覧できるようにすることも可能である。最近の機種では、単に静止画だけでなく、動画像を記録したり、音声も記録できるような機能を備えたものもある。動画はMPEGやMotion JPEGなどのパソコンで利用できる形式で記録できる。また、音声についてはMP3などの規格である。

社会教育での利用方法
 社会教育における活動や成果物の発表、公表に用いることができる。社会教育活動の映像記録や屋外でのフィールドワークの内容などの収集に利用できる。フィルムによる写真撮影の場合と比較して、ほぼその場で映像が利用可能であることから、限られた時間内での活動に効果的である。

 また、社会教育活動の公表の方法として、Webを用いることが多くなってきており、成果をWebにまとめる活動においても収集した静止画や動画像の映像、音声を利用することできる。

  2)携帯情報端末
    基本的な機能
 携帯を目的とした手のひら程度の小型のパソコンで、個人で利用する機能に絞ったり、携行する上で利用価値の高い機能を組み込んでいる。

 個人の予定表や住所録などの手帳の機能や文書作成、辞書などが基本的な機能である。さらに、通信機能を備えて電子メール閲覧やインターネットブラウザが利用できるなど、ノート型パソコンと機能的には変わらないものもある。一方、GPS(グローバル測位システム)のような携帯端末ならではのような機能を備えるものもある。さらに、デジタルカメラの機能、テレビ映像の受信、動画像ファイルの閲覧、音楽ファイルの試聴などの多くの機能を備えたものも現れている。

 ところで、携帯電話も単に通話機能だけでなく、高速度のインターネット通信を可能にした第3世代携帯電話が現れている。これらの携帯電話でも電話端末が高機能化し、動画撮影、テレビ電話機能、GPS機能などを備える他、メモリ媒体で情報を取り出すこともできるため、携帯情報端末とみなすこともできる。

社会教育での利用
 社会教育の教材を、携帯情報端末で学習者が利用したり、各学習者の活動をグループ内で相互に交換したり、グループ間での交流に利用することも可能である。さらに、通信機能を用いて屋外や分散環境での学習情報の交流や、GPS機能を用いたフィールドワークなどへの活用が考えられる。

 先のデジタルカメラの機能も包含するため、さまざまな利用が可能である。また、ノート型パソコンの一部の機能も持つことから、情報通信機器を用いた学習であるeラーニングを利用することも考えられる。

  3)協調学習支援システム
    基本的な機能
 ネットワーク接続されたコンピュータを利用して、複数の学習者が共同で学習する(協調学習)活動を支援するシステムである。コンピュータ支援協調学習(CSCL:Computer Supported Collaborative Learning)を実現するシステムである。学習者のコミュニケーションを支援するために、電子文書や映像、手書き文字情報などのマルチメディア情報を共有できる学習環境を提供する。本システムは学習者の所在位置にかかわらず、共同で学習できる遠隔学習の環境をも実現する。それぞれの学習者がテレビ会議によって意見を交換し、文章をまとめたり、画像の制作などを協力して行う学習形態や学習環境を支援するものである。

 特に、このシステムを用いた学習では、各学習者が他の学習者との交流や自身の学習について再考しながら、課題解決を進めていく過程における学習効果について論じられることが多い。

社会教育での利用
 社会教育は、各地域で独自な活動を進めることが多い。このため、他地域との学習における交流が少ないのが実状である。社会教育では、単に知識の獲得を目的としたものだけでなく、地域における活動や地域の問題解決に取り組む社会活動としての学習であることもある。このような過程において生じた問題や成果物は、その流通や交流方法が十分でないために、地域内での利用に留まることが多い。そこで、協調学習支援システムを用いることによって、単なる情報交流だけでなく、それぞれの地域が取り組む学習課題や学習成果を、他地域の学習者と共有して新たな共同学習を実現できる可能性がある。

 なお、社会教育での利用を考慮すると、統合的なシステムによる協調学習支援よりも、テレビ会議やファイル転送による情報共有など、協調学習に必要な機能をそれぞれ簡便な方法で実現して利用する方が実施しやすい。後述の実証実験ではこの点を考慮し、参加者自身の利用しやすい機器を用いた。

  (3)情報機器を用いた実証実験について
     本研究の目的や、現時点で利用可能な情報機器の特徴や社会教育での利用の可能性を考慮して、さまざまな形態で積極的に社会教育に取り組む学習者グループを対象に、情報機器の社会教育における活用の実証実験を行うことにした。

 まず、前項で列挙した多機能デジタルカメラや携帯情報端末を、各地域における学習活動に有効に利用する方法を検討していただいた。このため、情報機器に対してある程度の興味関心を持たれる学習者グループであることとした。

 さらに、協調学習支援システムを用いて、各地域における学習活動の状況や活動成果を交換していただき、地域間での新たな社会教育の実現の方法を実証することにした。各地域固有の問題を論じるのではなく、広く社会教育の在り方や今後の展開の方法について、学習者グループ自身にも学習できるように工夫することにした。

 これらの目的のために、できるだけ異なる地域、社会教育活動の内容を考慮して、実証実験へのご協力をお願いした。ただし、基本的な学習活動には特別なお願いをせずに、それぞれの学習活動を尊重して定常的な活動に基づいて実験に参加していただくようにした。