.国内における最新の学習資源提供機器利用調査

モニター試用実践事例調査(4)
〔一般向け情報通信機器・システム〕 《携帯情報端末》
PDA 

地域マップ作りにおけるPDA活用の可能性を探る

(1) 機器機能
   ワイヤレス通信機能を標準搭載しており、PHSや携帯電話を利用して、ワイヤレスでインターネットにアクセスすることができる。また、基本ソフトウェアに「Pocket PC 2002 Software」を採用することで高機能かつ快適動作を実現。
 さらに電子地図ソフトウェアをバンドルしており、情報検索、コミュニケーション、個人情報管理、エンターテイメントコンテンツを利用することができる。一度の充電で、最大20時間の利用が可能。約175gと軽量で持ち運びに便利。

(2) 教育機関の概要
   足立区生涯学習センターは、足立区の生涯学習施設の中核として、学習情報の収集や提供、学習相談を行うとともに、生涯学習に関する調査研究を進めている。また、区内13ヶ所の地域学習センターを始めとした地域の施設と連携した地域学習ネットワークの形成を通して、区民の生涯学習への支援を行っている。さらに、生涯学習センターでは、生涯学習ボランティアや生涯学習の指導者の方々の研修や活動の場の提供を積極的に進めている。
 生涯学習センターには、コンピュータを利用した研修ができる部屋のほか、個人でもコンピュータを利用した学習ができる「コンピュータ学習室」があり、インターネットの利用も可能。ビデオスタジオやビデオ編集室も個人での利用ができるが、これらの機能を活用してボランティアによる地域の映像資料制作を行っている。
 生涯学習センターは、生涯学習総合施設(愛称:学びピア21)の4階と5階に位置しているが、この総合施設は中央図書館、放送大学東京足立学習センターと生涯学習センターからなる施設で、さまざまな生涯学習のニーズに対応している。

(3) 活用目的
   地域マップ作りにおけるPDA活用の可能性を探る。

(4) 活用概要・対象者
 
活用事業 花畑地域学習センターにおける地域の散歩マップづくり事業
概   要 地域住民が興味関心に沿ってグループに分かれ、地域を実際に歩いて調べた結果をマップにまとめ、広く地域住民に情報発信する。
事業日程 2003年3月1日(土)、8日(土)、15日(土)、22日(土)各13:00〜16:00
実証期間 3月1日(土)および8日(土)の2回に実際にグループごとに分かれて地域を歩く際に利用。
参 加 者 応募者12名(成人男女7名、小学校5年生男子5名)。
  
(5) 実践内容
  検証内容として想定した事項
    ・事前に地域のデータをPDAに入力しておき、歩く際に活用する。
・歩きながら記録をとる(メモ、録音)。
・結果をPDA同士でデータを共有する。
・データをパソコンに移して、マップ作りに活用する。
  講師との事前検証
     当事業の講師であるNPO法人エココミュニケーションセンター事務局長三崎修氏と事前に借用したPDAを利用して想定した事項を検証できるか確認した。協議の結果、操作の習熟に一定期間の慣れが必要であり、子どもや高年齢層の参加者においては容易ではないこと、4回の事業の際に集まるだけの参加者にPDA操作の負担をかけると本来の事業目的の達成に支障を来たす恐れがあることにより限定的に使うこととした。
  事業の進め方
     事業は1回3時間で4回の講座である。ワークショップ形式で、1回目はテーマを絞らずに街歩きをし、各自が発見したものを持ち寄ってテーマ作りを行う。2回目はテーマ設定に基づいてグループで歩いてマップ作りのデータを集める。3回目はデータをもとに模造紙を使ってマップ作りを行う。4回目はマップの発表と活用方法の検討。
  PDAの活用内容
    ・付属ソフトを活用し、歩く地域の地図データを取り込んでおき、歩きながら地図に必要事項を書き込んでいく。
・地域の公園や施設データをPDAに取り込んでおき、随時参照する。
・インターネットに接続して必要な情報を検索する。
  第1回目の様子
    当日はあいにくの雨となり、参加者が大人2名と子ども4名となってしまい、雨の中を傘をさして歩くという状態のため、利用を断念した。
  第2日目の様子
   
 天気もよく、大人7名、子ども4名の参加があり、2グループに分かれて街歩きを行った。PDAについては、高年齢層の参加者や女性からは敬遠する声があり、子どもは興味は示したものの、操作してみると難しく、若手の参加者がグループで1台を利用することとなった。
 街歩きの際のグループの分担は、紙の地図にルートをなぞる、気がついた点をメモする、デジタルカメラで記録する、PDAを利用する(地図の画像データにルートやメモを記入する、必要なデータを呼び出して確認する)というようにした。
 会場に戻って、PDAのデータと紙のデータを比較し、相互に補った後、パソコンにデータを取り込んだ(写真1)。このデータは3日目と4日目に活用する。会場となる花畑地域学習センターの学習室の壁にはLANを利用したインターネット利用が可能なジャックが設置されているので、そこに無線LANのアクセスポイントを接続し、PDAに無線
LANカードを挿して花畑に関する情報検索を行った(写真2)。

写真1・歩きながら地図に書きこんだデータをパソコンで確認・加工

  利用した結果
   
(ア)地図画像への記録
 地図データをJPEGファイルとしてコンパクトフラッシュに保存し、付属ソフトである「イメージビューア」で表示しながら書き込みを行い、戻ってからパソコンに取り込んだ。ソフトの制約で書き込みを行う際には100%表示になり、表示範囲が限られるため、全体像をつかむことが難しかったという感想が出された。1日目に雨の中を出かけた際に利用をためらったことも合わせて、紙の地図に書き込む簡便さ以上のメリットは出せなかったといえる。もっと違う活用のしかたを考えるべきであったという意見が出された。
 また、事業の中で地図を加工したり、プロジェクターで投影したりすることは問題ないのだろうが、成果を外部に発信しようとしたときには地図データをそのまま利用することができず、オリジナルなものを作成しなおさなければならない。結局、紙ベースで記録したものを戻ってパソコンデータに加工するという進め方と変わらないことになる。
(イ)ルート上のデータを入力しておき随時参照する
 エリア内の公園や施設のデータをテキストファイルとしてコンパクトフラッシュに保存し、参照できるようにしたが、操作者の不慣れもあって、地図への記入が精一杯で、切り替えてデータを参照するということまで出来なかった。学校と違い、その都度参加者がその時間だけ集まるという生涯学習事業の進め方では機器操作の習熟が課題になる。
(ウ)無線LANでのインターネット利用
 会場で花畑に関する情報を検索してみたが、画面の制約もあり室内でPDAを使ってインターネットを利用するメリットはなかった。花畑の情報はほとんど見つからず、自分たちで発信していかなければいけないという意見が出てきたのは収穫であったが。



写真2・無線LANを利用して、インターネットで情報検索
(6) 学習効果
   前項で述べたように、今回の取り組みは機器の特性を理解して実施するには至らなかったため、想定した利用が思うように行かなかった。従って「効果」という面の検証までには至らなかった。しかし、可能性についてはいくつか検討できたので次項でふれたい。

(7) 利用可能な活動と利用上の留意点
  今回の取り組みから出された機器に対する要望と活用の方向性についての検討結果をここで述べたい。
  機器への要望
    ・個人が使いこなすには機能が多いことはいいことだが、生涯学習事業で活用するには機能を絞り込めるようになっているとよい。現状では使いこなしにハードルが高い。もっとシンプルに使えるとよい。
・前項とは逆のようだが、カメラ機能を持っているともっと活用できるのではないか。
・画面表示の解像度がもっと高くなると表示できるデータ量も増え、活用の可能性が広がる(見易さとデータ量のバランスが難しいだろうが)。
  生涯学習での活用の可能性
    ・ワイヤレス通信機器を標準搭載しているというメリットを生かした利用を考えるべきであろう。今回でいえば、ポイントとなる場所に必要なデータを入力したPDAを用意しておき、近づくと持ち歩いているPDAにデータがプッシュされるという使い方ができれば効果があがるのではないか。
・参加者があらかじめ機器操作やデータの蓄積を行えるようにすると、もっと活用できるのではないか。各自に一定期間貸し出して、自宅や自分で出かけた際に気がついた内容を入力しておき、集まったときにワイヤレス通信機器を利用してデータ交換をすることで共有化を図る、といった使い方ができればより生きてくる。その際には、やはりカメラ機能を持っていると、より具体的に、よりビジュアルに情報を共有することができると考えられる。

(8) 報告者
  足立区生涯学習振興公社生涯学習事業部地域学習推進課長 村上 長彦

(9) 資料提供
   富士通株式会社 http://jp.fujitsu.com/
 機器型名 Pocket LOOX/FLX2H