調査研究の概要

1.調査研究の目的
 本調査研究の目的は、従来の『視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準』(以下、『標準』と略す)の当否を検討し、改正を行うための基礎的資料を収集することである。
 従来の『標準』は、まず昭和48年に設定され、平成4年にそれの改正が行われたが、以来10年以上が経過している。その間、情報社会の進展にともなって視聴覚教育メディアの状況は著しく変化してきている。従来の『標準』においても、インターネットなどのネットワークに関する研修項目が盛り込まれてはいるが、それでも十分とはいえない状況となっている。
 近年のICT関連の研修が盛んになるにつれて、従来の『標準』は、その内容と方法に関して、改めて抜本的な見直しが必要となってきた。そこで、『標準』の改正のための最初の作業として、改正の基礎となる資料を収集することとなった。特に本調査研究が目指したのは、『標準』の活用状況の把握、新たな『標準』の必要性の有無、及び、新たな『標準』の内容と方法への示唆を得ることであった。

2.調査研究の方法
本調査研究は、以下の手続きで行われた。手続きの大要は、調査研究の作業の手順の図に示す通りである。

(1)調査の基本方針の策定(平成14年9月)
従来の『標準』(昭和48年及び平成4年)の設定に関わった委員によって、その経緯、特徴、問題点が報告され、これをめぐって討論が行われた。なかでも、「視聴覚教育メディア」という名称の適切さ、現在進行中のIT教育との関連、学校教育と社会教育の指導者の状況などの問題も議せられた。また、従来の『標準』に直接的に関わる問題として、国・都道府県・市町村などの研修実施主体の区別、対象者別の研修、対象者別の研修内容、メニュー方式、必修・選択方式などが取り上げられ、これらも改めて吟味することとなった。

(2)訪問調査のための質問項目の作成(平成14年10月)
本調査に先立ち、幾つかの関係団体を訪問して、従来の『標準』の活用状況、問題点などを明らかにするために、基本的な質問項目にまとめて、共通の課題を取り出す方法とした。訪問調査で得られた問題点を、本調査の項目に反映させるためである。このような訪問調査は、本調査のための、いわば予備調査に位置づけられるものである。
 訪問調査の項目の大要は、以下に記す事項に関してであった。
 「研修の内容と方法(一般)」、「研修の企画・内容の策定」、「予算措置」、「研修の開催回数」、「研修に関わる広報」、「研修のねらい(目標)」、「研修の内容(『標準』案との関係)」、「設備・機材の状況・確保」、「研修担当者、指導者、講師の措置」、「受講者」、「研修の進め方」、「研修の評価」、「次年度以降の研修計画」、「現行のカリキュラム」、「新カリキュラムの策定」を含むものであった。

(3)訪問調査の実施(平成14年11月)
 訪問調査の対象団体として、これまでの活動状況を勘案して、8団体が選ばれた。それらは、富山県映像センター、静岡県総合教育センター、岡山県教育センター、岡山県生涯学習センター、金沢市教育研究センター、松本市教育文化センター、静岡市視聴覚センター、及び、加古川市立視聴覚センターである。これらセンターは、かならずしも「視聴覚センター」の名称を有するものではないが、最近の約10年間に視聴覚教育関連の活動を行う団体が「教育センター」、「生涯学習センター」、「総合教育センター」などに包括され、視聴覚教育活動がより統合的な「センター」の一部門になっている例が多くなっている。

(4)訪問調査結果の整理(平成14年11月)
 標準質問項目によって、それぞれのセンターで聞き取り調査を行った。そして、調査結果を整理して、本調査のための質問項目作りの基礎資料とした。幾つかの調査項目では、自由な意見の開陳を求めており、量化できる資料のみならず、質的な資料として、次段階の調査研究の参考とすることができた。

(5)質問紙(郵送)調査のための調査表の作成(平成14年12月)
 訪問調査の結果を基にして、本調査としての質問紙(郵送)を作成した。本調査は大別して、視聴覚教育メディア研修に関わる各団体の研修実態の把握、『標準』の活用状況、研修内容の適切性、『標準』の改正に向けての研修現場のニーズや問題点に関する項目から構成されている。この段階での調査は、研修内容の詳細、つまり、多様なメディアに関する知識や技能の課題を詰めることよりも、現代のICT教育の枠組みの中で、メディアを中心とする研修の意義と今後の方向に関する課題に焦点を置くこととした。

(6)調査の実施(平成14年12月〜1月)
郵送による質問紙調査を行った。調査対象は、(1)都道府県・指定都市教育センター64
団体(全数)、(2)都道府県・指定都市生涯学習センター33団体(全数)、(3)都道府県・指定都市視聴覚ライブラリー56団体(高校ライブラリーを除く全数)、及び、(4)市区町村視聴覚ライブラリー120団体(10万人以上の住民を対象とし専任職員が1名以上のもの)、総計273団体である。

(7)調査結果のまとめ(平成15年1月)
 前記調査対象の273団体うち、188団体から回答が寄せられた。そのうち、回答が不十分で、分析に適さないものを除いた有効回答数は160であった。有効回答率は85.11%であった。それぞれの団体別では、(1)都道府県・指定都市教育センター:40/47(有効回答率 85.11%)、(2)都道府県・指定都市生涯学習センター:19/25(76.0%)、(3)都道府県・指定都市視聴覚ライブラリー:23/32(71.88%)、(4)市区町村視聴覚ライブラリー:78/84(92.86%)であった。
 調査結果の大要は、『標準』の活用状況はやや低いが、その必要性は高いとしている。そして、新たな『標準』では研修項目の大幅な入れ替えが必要であるが、新たなデジタル技術に関わる研修とともに、従来の視聴覚教育メディアに関わる技術とのバランスのよい研修項目案が望まれるとしている。

3.本調査研究からの提言
 本研究調査を進める過程と、訪問調査と郵送による本調査の結果から、『視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準』に次のような事項に関して提言を行っている。
 『標準』の必要性、「視聴覚教育メディア研修」の名称、ICT教育と密接な関連、教育メディアに関わる人材の育成、『標準』の永続的な改定、『標準』の周知の方法の工夫、研修実施主体と研修内容別実施の再検討、研修内容と方法の再検討、大項目の研修項目の維持と枠内での詳細な研修事項の必要性、メニュー方式の維持、 研修項目の大幅な入れ替え、メディア・リテラシーのための研修の必要性、習熟度別研修項目の作成の必要性、研修事例の提示、『標準』とカリキュラム作成におけるニーズの吟味を、挙げて、委員会の意見と調査結果とを記している。
 この調査研究は、始めに記したように、『標準』の改定のための基礎的資料を得ることであった。つまり、次の作業のための事前調査にあたるわけである。次の仕事は、『標準』において、研修項目、研修の方法などの具体的課題をまとめることである。


[中野 照海]