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新たな取り組みについて

3.モジュール化について
 <モジュールコンテンツ検討委員会委員>
 
部会長 清水 康敬 (国立教育政策研究所教育研究情報センター長)
委 員 鈴木 克明 (岩手県立大学教授)
坂井 知志 (常磐大学助教授)
前川 道博 (東北芸術工科大学専任講師)
 <委員会開催日>
 
第1回モジュールコンテンツ検討委員会 平成15年8月27日 (水)
第2回モジュールコンテンツ検討委員会 平成16年1月16日 (金)
 作業の流れ
 
エル・ネットを利用したコンテンツ配信システムの運用の開始に伴い、平成14年度に開発した13講義は、1コンテンツが100メガバイト程度あり、モジュール化教材とはいえない。そのため、13コンテンツの中から、いくつかをモジュール化し、部分的にインターネットで提供することが必要、という議論がなされた。
   
平成16年度には、エル・ネット「オープンカレッジ」の講座をインターネットへも配信する予定である。既存の講座で著作権者の了解が得られるものについて、サンプルとしてインターネット上で配信することが提案された。
   
平成14年度開発コンテンツの中で、新潟大学講座「腎臓病Q&A」(山本教授担当分)について、2次加工の許諾を得、これをインターネット上にサンプルモジュールコンテンツ教材として提供した。
(http://www.opencol.gr.jp/making/index.html)
   
モジュールコンテンツについては、いろいろなバリエーションが考えられる。平成14年度に開発されたエル・ネットコンテンツ配信システム用コンテンツ「IT活用型生涯学習講座」のデジタル・コンテンツが参考になることから、「Pushcornワークショップ 楽しく協働学習」(東北芸術工科大学)も著作権処理をした上でサンプルモジュールコンテンツ教材として提供した。
                                                              (事務局)
 
新潟大学講座「腎臓病Q&A」(山本格教授)
 
 
 
「IT活用型生涯学習講座」「Pushcornワークショップ 楽しく協働学習」
                                (東北芸術工科大学 前川道博講師)
 
   
〔1〕モジュールコンテンツのあり方について
(1)はじめに
   モジュールコンテンツのあり方を説明する前に、その意味を明確にしておきたい。
 まず、「モジュールmodule」とは「独立に扱える内容のまとまり」、あるいは「論理的に分解可能な最小の構成単位」、「組み替えを容易にする基本単位」を意味している。一方、英語のcontentsは「内容、中身」を意味し、広い意味を持っている。しかし、我が国においてカタカナ表示された「コンテンツ」は、「電子媒体を通してやりとりされる情報の内容」(独立行政法人国立国語研究所・外来語言い換え提案より)を意味している。すなわ
ち、コンテンツは英語でのdigital content(デジタル・コンテンツ)を意味している場合が多い。ただし、テレビのコンテンツというとテレビの番組の内容を意味しており、アナログ方式のテレビ番組の内容もコンテンツである。
 これらのことを基本にして考えると分かるように、ここでのモジュールコンテンツは、「最小のまとまりとした電子媒体による情報の内容」と定義されると考えている。
   
(2)テレビ放送番組のモジュール化
   テレビの番組などでは限られた時間内で如何に見せる番組を制作するかが目標となる。
多くの番組の場合、番組にはストーリー性があり、その時間内で起承転結がある。そのため、最初から最後まで通して視聴することを前提としている。特にドラマ性のある番組のディレクターは、番組の視聴中に止めることも、番組を分割して視聴することも嫌う。したがって、テレビ放送のように一過性的に流される番組を分割してモジュール化することは想定されていない。
 テレビ放送は途中で止められないが、VTRに録画した番組は途中で止められる。しかし、早送りをすると音が消えてしまう。また、最後を見てから前に戻って見るようなことはVTR操作で簡単にできないため、番組のモジュール化はあまり行われていない。しかし、最近のDVD等では簡単に途中から視聴することが瞬時にできるようになった。したがって、番組を途中から視聴したり、順序を変えて視聴したりすることが増えている。
   
(3)エル・ネット番組のモジュール化
   一方、教育情報衛星通信ネットワーク(エル・ネット)で提供される教育情報は、大学等の公開講座などが多く、講師による講座形式の番組が多い。このような場合、講座全体の起承転結を意識したり、ドラマのようなストーリー性を強調したりするような番組は少ない。また、講座全体で一つの学習目標を持つ内容となっている場合よりも、講座の時間内でいくつかの内容に分かれている場合が多い。このように、内容的に区切りがあり、内
容のまとまりによって分けることができる講座等はモジュール化することが望ましい。モジュール化することによって、学習者が内容的にまとまったモジュール毎に学習することになり、この方が効果的であるためである。ただし、1時間とか1時間半といった講座時間は、内容よりも別な面から決められているので、内容の面から各モジュールの学習時間が決められことになる。このようにモジュール化された内容が「モジュールコンテンツ」
である。
 テレビの講座をモジュール化するに際して重要なことは、「各モジュールの内容がまとまっているか」、「モジュールの学習目標が明確であるか」、「モジュールの名称がその内容を明確に表しているか」などをよく留意することである。
   
(4)モジュール化の基本的な考え方
   前項では、講座が既に行われた後で行うモジュール化とか、従来方式で講座を実施することになっている場合のモジュール化等について説明した。しかし、モジュール化された講座は、どのモジュールから視聴しても構わないことを前提としているため、番組からモジュール化するのでは優れたモジュールコンテンツとはなりにくい。したがって、例えばエル・ネットで配信する講座番組も、事前準備の段階からモジュール化することを前提に して講座の設計をすることが望ましい。そこで、モジュール化する場合の基本を以下に簡単に説明する。
 先ず、実施する講座はニーズがある必要があるので、どのような受講対象者に対してどのような内容の講座とすべきか検討する。そして、その講座の目標を達成するために必要な学習項目を多く抽出する。
 次に、それらの学習項目の類似性や、同じ作業等で学習できる項目等の観点から学習項目のまとまりを作ってモジュールを構成する。そして、そのモジュールを学習することによって達成できるモジュールの学習目標を明確に記述するとともに、モジュールの内容を示す具体的な名称をつける。また、受講者が目標を達成するためには、効果的な学習項目の順番を検討する必要がある。このようにして、効果的なモジュールコンテンツができあがる。
 このように、すでにできている番組をトップダウン的にモジュール化することとは反対に、個々の学習項目をまとめて、ボトムアップ的にモジュール化することが重要である。
                                                          (清水 康敬)
   
〔2〕モジュールコンテンツの著作権処理について
(1)はじめに
   「著作権法の一部を改正する法律」が平成15年6月に国会で可決・成立し、16年1月1日から施行された。新聞等では映画の著作権保護期間が公表後50年から70年まで延長されたと取り上げていたが、実は加えて様々なことが改正された。中でも、著作権侵害に対する司法救済制度が変わり権利者の損害額の立証負担が軽減されたことは、大きな改正点であるといえる。簡単にいえば、訴訟が起こしやすくなったのである。このことは教育関係者にはあまり知られていない。さらに、今回のテーマであるモジュール化に一番関係する「教育に係る権利制限の拡大」が議論され、改正点が見られたことは注視する必要がある。結果的に、今回の改正には教育界の充分な意向は反映されない形となってはいるが、権利者と教育界の利用者が今後も話し合いを継続するきっかけにできれば、双方にとって好ましい状況を生み出したスタートラインとして位置づけることができる。
   
(2)モジュール化と著作権
   著作者には「人格権」と「財産権」の権利が認められている。通常、著作権の議論は「財産権」に集中しているようにみえる。しかし、モジュール化は「人格権」にも注意が必要である。学校の入学試験等において、問題の量的なものを勘案し、数行おきに削除を繰り返し作問することがある。このことは、引用で許されていると思い込んでいる人がいる。学校教育の目的上、やむを得ないと認められる場合もあるが、注意が必要である。著
作者の意図を変えてしまい、結果的に同一性保持権(自分の著作物の内容等を自分の意図に反して改変されない)を侵害してしまうケースは出題としても不適切であるし、法律上問題があるとも考えられる。
 このように、著作物を切り刻むモジュール化は、特にこの「人格権」との関係に注意を払わなければならない。今回は、モジュール化において想定される本来の利用とは異なる利用なども考慮し、幅広く応用が効くように問題を整理してみる。
 最も注意することは、一つのコンテンツを通して学習することを前提にした場合と、いわゆる「つまみ食い」を前提としたモジュール化とでは、当然著作者に配慮する方法が違うということである。たとえば引用にしても、モジュール化された各コンテンツごとに、その著作物を引用する必然性や出所の明示、利用者と引用者の明確な区別、主従関係が明確であること等が求められる。つまり、全体として守らなければならないルールが個別ご
とに処理されなければならない。全体として適切な引用であっても、モジュール化を前提にすれば不適切になるということがありうるということである。
 引用の必然性とは何か、主従関係とは何かについて、一層の学習が求められる。
   
(3)著作権の利用承諾
   次に、引用ではない別の方法はないものであろうか。一番確かな方法は、利用するコンテンツを自作するか、著作者の了解を取ることである。全ての著作者の了解を得るためには事後の処理はほぼ不可能であり、事前の承諾が不可欠といえる。現在、著作権の利用承諾については「エル・ネット」の著作権承諾システムが一番教育界では明快な方法であるといえる。しかし、これはあくまでも「エル・ネット」の範疇であり、インターネットで
の利用は想定していない。文化庁の文化審議会でも、平成15年1月の「文化審議会著作権分科会審議経過報告」において、モデルとなる承諾書の必要性を認めている。その承諾書が示されるまでの間、それではどのような方法で著作者の了解を取ればよいか考えてみよう。
   
  文書による了解
 上記の「エル・ネット」の方法を学習し、それに補足説明の文章を付けることが考えられる。補足説明には、どのような利用方法を行うかを、できるだけ詳細に示すことである。そのうえで、承諾書への署名を事前に取ることである。
   
  参加者を募る条件としての了解
 遠隔教育などに受講者が質問をすることがある。質問にも著作権は発生する。さらにパネルディスカッションをモジュール化することも十分想定できる。当然、パネラーの発言も著作物である。このように、コンテンツに関係する全ての人々には著作権が発生する可能性がある。学会などの大会の様子を、分科会も含めて全てモジュール化することは、活用するものとしては極めて便利なものである。このような場合、大会発表や質問者に質問を編集することやモジュール化することを事前に周知しておくことが簡便な方法といえる。しかし、それを参加の条件とすることではなく、支障がある場合は申し出る方法で運用されることが望ましいと考えられる。
   
  口頭による了解
 この方法が一番簡便であるが、そのためのマニュアルは記録としても必要である。
   
   以上、簡単に説明したが、十分なものとはなっていない。様々な利用形態に対応するパターン化が示されることが望まれている。教育界がその積み重ねをしていく時といえる。
                                                          (坂井 知志)
   
〔3〕インターネットを活用した市民講座とエル・ネット「オープンカレッジ」
(1)オンデマンドへの進化
   モジュールコンテンツは、エル・ネット「オープンカレッジ」講座のオンデマンド化である。インターネットに接続された環境であれば、いつでもどこでも誰でも、見たい講義を任意に選んで見ることができる。さらには年度を重ねるごとにモジュールコンテンツの蓄積数は増え、歴史もボリュームもある「オープンカレッジ」アーカイブに成長することが見込まれる。
 モジュールコンテンツはまた「オープンカレッジ」講座のeラーニング化と捉えることもできる。講座番組=ビデオの形態に加え、目次(インデクス)、アブストラクト、マルチメディア資料が付加される点で、放送番組としての講座の概念を大きく超えるものである。
 モジュールコンテンツの役割は、以上のとおり、放送の並立・代替ということに加え、任意の市民講座に必要なコンテンツを組み入れて視聴したり、学習者が自宅で時間のある時に予習、復習に役立てたり、自分の学習テーマに即して必要な知識をその都度任意に吸収できる機会の提供という新たな可能性を開く。
 ここではこうしたモジュールコンテンツの新たな可能性に着目し、市民がエル・ネット「オープンカレッジ」のモジュールコンテンツを利用することを想定した場合に、どのような講座を提供したらよいか、市民はモジュールコンテンツをどのように利用していくかを予測してみたい。
   
(2)どのように講座を提供するか
   オープンカレッジの講座は、各大学から多様な専門の講座が提供されるのが魅力である。
 こうした内容について、より望ましい講座を提案することにはあまり意味がない。考え方としては、どのように講座を構成するとモジュールコンテンツとする特長が活かされるかの視点から、講座内容の組み方を検討するのがよいであろう。
 従来どおり、所定の時間内(110分以内)で1講座が組まれるとすると、コンテンツのモジュール化は無理ではないにしても、モジュールの相互独立性は総じて低いものとなることが予想される。講義の前後関係(論理展開)で後続の部分が、その先行部分を見ていなければ理解できない内容になっているとすると、それは独立性が低いものとなる。このことからもわかるようにモジュールは、物理的に分割した単位ではなく、内容からみた独 立性の単位=単元である。
 モジュールコンテンツは、1講座として構成されて意味があるだけでなく、断片のみを見ても学習の役に立つことが求められる。この視点からは講義のいくつもの単元に細分化し、全体を再構成するという構成概念が不可欠である。目安としては1モジュール(=1単元)が5分?15分程度。もちろん単元の内容によって短かったり長かったりしてよい。
  講義以外にも、実例の紹介、機材等の操作説明などは単元とは言えないにせよ、モジュールの単位にしやすい。
  内容的な面から見ると、全く異なるテーマの講座の一部に組み入れられる可能性を考えつつ、それを意識した単元の切り出しを行う方法もある。例えば、「海流の文化を探る」という講義の中の「沖縄の食文化」という単元は、「食文化に見る地域差」という講座に取り込むことのできる可能性がある。実際のところ、異なる講義のコンテクスト中に収まるかどうか、再利用できるかどうかを予見して見極めることは困難である。しかしながら、
モジュールコンテンツ(各講義からばらされた単元)が蓄積されていけば、新たなオープンカレッジの講座がそれらを講座の全体構成に加える形で再利用したり、再利用を前提として新たな講座を企画するといった展開に道を拓くことができる。
   
(3)講義資料をマルチメディア形式で取り揃える
   講義=ビデオでは必ずしもない。講義録などのテキストデータ、静止画、ビデオ、音声、数値・図表データなど講義を視聴する学習者に対し、必要な資料を提供することで、学習者にとっての便宜を高めることができる。講義の中で紹介しきれない資料を任意に参照可能とすることは、講義を立体的に奥行きのあるコンテンツに高める上で効果があるだけでなく、モジュールの再利用可能性を高めることにも有効である。
   
(4)インターネットを活用した市民講座
   インターネットを活用した市民講座がどのように企画されるか、またそうした市民講座が今後どの程度普及していくか。主に想定しうるのは次の2ケースである。
 一つは、eラーニング講座のアーカイブとしてモジュールコンテンツを再利用することにより、新たな講座を組むことができることである。どのような企画、組み方があるかは、講座の目的や企画者の才覚などにより、新たなテーマの元にモジュールコンテンツを組み合わせてコンテクストを構成することで、市民講座を提供することが可能ですらある。モジュールコンテンツの品揃えが豊富になればこの可能性は十分にある。
  もう一つは、生涯学習施設などの市民講座の中に、担当講師の知識や力量では補いきれない必要な講義を部分的に取り込むことである。現実にはこのケースで再利用される機会が多いであろうと予見できる。
  例えば、地域の民俗を学習して情報発信する内容の市民講座を考えてみよう。この場合、民俗学専門の講師が市民講座をコーディネートし、苦手な情報発信の部分を「ホームページ制作講座」で補完することで、講師の負担を軽減したり、講師の限界を補完したりすることで、より望ましい市民講座を提供することができるようになる。
   
(5)学習コミュニティでの利用
   学習コミュニティで何を学習するかも多様である。地域学などを皆で共通項を学びながら、学習者個人がそれぞれの興味あるテーマで主体的に、あるいは協働的に学ぶ状況が想定される。こうした場合、学習内容はそれぞれに異なることから、視聴するモジュールコンテンツは任意にさまざまなものが選ばれることになる。こうした学習ニーズに応えるためには、必要となるコンテンツがどれかが容易に探し出せるように、適切なタイトルを付すこと、検索サービスを提供することが重要となろう。
                                                          (前川 道博)
   
〔4〕生涯学習講座におけるブレンディングについて
(1)ブレンディングとは何か
   ブレンディング[blending]とは、異なる教育方法を組み合わせてより高い効果をねらうように研修コース全体をデザインする手法である。eラーニングが企業内教育などで注目されてくるにつれて、eラーニングと集合研修などその他の研修形態をミックスすることが日常化したことから、ブレンディングという言葉が一般化した。生涯学習講座にモジュールコンテンツを用いる場合、モジュールコンテンツに何を求め、それ以外に何を加え ることで、講座全体をどのようにトータルデザインするかを考える必要がある。その際、eラーニングにおけるブレンディングの考え方はひとつの参考になる。
  根本(2002)は、WBT(Webを用いた研修)と集合研修をブレンディングする事例は、集合研修(オリエンテーションなど)と集合研修(ディスカッションなど)の中間にeラーニングによる学習を据える「中核型」と、それとは逆に集合研修の予習と復習をeラーニングで実施する「両端型」の2つに大別される傾向があると指摘している。モジュールコンテンツを講座参加者が自宅などで利用できるようになれば(いわゆるeラーニングとしての利用)、参加者が一堂に会したときには何をやるのが良いのか。
 eラーニングを前提とした講座のあり方は、それを前提としていない講座とはおのずと異なってくることが予想される。根本(2002)は、ブレンディングとは、既存のコースをそのまま残すことではなく、集合研修とeラーニングの長所を組み合わせ、互いに特化した目的を担わせることだと強調している。自宅利用ができるようになったことで、学習機会がより柔軟になった。この変化を最大限に活用することを考えれば、eラーニングでは できないことを集合研修でやる、というのが棲み分けの原則になるのだろう。
  この他のブレンディングの可能性としては、香取(2001)が、ラーニングセンターなどに集合してインストラクタの指導のもとにWBT教材などを使って個別研修を進める方法と、WBT教材をインストラクタが使いながら集合研修を進める方法が考えられるとしている。インターネット環境などが整っていない参加者向けに、公民館などのインターネット端末や録画された教材を視聴するコーナーを開放し、全員集合してディスカッションする前に個別に予習をしてもらうような講座デザインも考えられる。また、モジュールコンテンツを従来からの生涯学習講座の一部として、インストラクタ主導の下で全員視聴することもまた、利用方法の一つである。
 
(2)何と何をブレンディングするか:組み合わせの妙を求める
   ブレンディングにおいて、組み合わせる(ブレンドする)要素には何があるのだろうか。マルチメディアIDを扱った解説書(リー&オーエン、2003)では、研修方法を(1)インストラクタ主導、(2)コンピュータ研修(CBT)、(3)遠隔ブロードキャスティング、(4)ウェブ研修(WBT)、(5)音声テープ、(6)ビデオテープ、(7)業務遂行支援システム(PSS[Performance Support System])、(8)e業務遂行支援ツール(EPSS[ElectricPerformance Support System])に分類し、それぞれの特徴に応じて選択する手法を提案している(詳細は、リー&オーエン、2003の第10章メディア分析を参照)。
 それぞれの研修方法の長所と短所を考慮し、適切にメディアを組み合わせていくというメディア選択・利用の原則は、ブレンディングという言葉が使われる以前から、普遍のものである。新しく加わるモジュールコンテンツという研修方法がどのような特徴を持っているのかを正確に捉え(おそらくそれはどんなコンテンツかに依存するところが大きい)、従来からの研修形態の何を変えて何を残すのかを考えることから始めていくことになるの
だろう。言い方を変えれば、モジュールコンテンツを開発するときには、それがどのような研修全体計画の中で他のどのような要素と組み合わせて用いられるのかを念頭において開発していくことが求められることになる。
 ブレンディングという用語は、使われ始めた当時は「いつでもどこでもできる」という特徴を持つeラーニング(個別教材)と「みんなが一斉に集まることで達成可能なこと」を追求する集合研修を如何に組み合わせていくかを考えることに限定されていた。しかし、近年では、ブレンディングという用語が、eラーニングと集合研修以外の組み合わせにも援用されている。SINGH(2004)は、たとえば次のような異なる要素の最適な組み合 わせが模索されているという。
 (1) オンライン学習とオフライン学習:刻々と変化する新鮮な要素を取り入れる
 (2) 個別学習と同時的な協調学習:ダイナミックな意見交換と共有の要素を入れる
 (3) 構造的な学習と非構造的な学習:学習の進行に応じて柔軟な要素を入れる
 (4) 市販教材による学習と自作教材による学習:地方の実態に応じた要素を入れる
 (5) 学習と練習場面、遂行支援の組み合わせ:補足的な要素をタイムリーに入れる

 学習環境がますます豊かになり、色々なタイプの研修形態が考えられるようになるにつれ、モジュールコンテンツに何を求め、その他に何を加えるか、研修全体のレイアウトと効果的な組み合わせの妙を追求したいものである。
 
参考文献
  ウィリアム・W.・リー&ダイアナ・L. オーエンズ(2003)清水康敬(監修),日本ラーニングコンソシアム(訳)『インスト  ラクショナルデザイン入門―マルチメディアにおける教育設計』 東京電機大学出版局
香取一昭(2001)『eラーニング経営:ナレッジ・エコノミー時代の人材戦略』エルコ
根本孝(2002)『E−人材開発:学習アーキテクチャーの構築』中央公論社
Singh, H. (2003). Building effective blended learning program. Educational Technology, XLIII (6), 51-54.
                                                          (鈴木 克明)

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