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第4章 新たな取り組みについて

1.番組評価検討会について
  〔1〕番組評価検討会委員
  浅野 孝夫(立教大学・聖心女子大学非常勤講師(元十文字学園女子大学教授))
佐藤 信一(株式会社中京テレビ映像企画 取締役)
高津 直己(東京情報大学教授)
野上 俊和(放送大学学園制作部ディレクター)
三尾 忠男(早稲田大学助教授)*部会長
吉田 敦也(徳島大学教授)
  〔2〕調査研究の趣旨と概要
   エル・ネット「オープンカレッジ」の映像制作の方法は、協議会収録のほかに大学独自
収録の二つがあり、表1に示すとおり大学独自収録が増えている。
    表1 番組制作での収録方法の推移
 ※平成14,15年度において両方の方法を採用した大学が1校ある。
     
     平成13年度までの報告書において、番組の構成や講義方法について工夫が求められることが意見として指摘されている。本検討会では、受講者を中心に現状の調査をおこない、よりよい番組制作に向け取り組むべき課題を検討することを目的として昨年度に発足した。
 調査は、対象を番組の「受け手」と「送り手」という観点で捉え、次の方法でおこなった。
     
      表2 調査対象と方法
  平成14年度 (昨年度) 平成15年度 (今年度)
受け手
(モデル事業
の受講者)
・アンケート調査
・ヒアリング調査
・アンケート調査
・ヒアリング調査
送り手 ・講師へのアンケート調査
・制作プロダクションへのヒアリング調査
・講師へのヒアリング調査
     
     受講者を対象とした今年度のヒアリング調査は、都市部(人口密集地)で行った。
  今年度は、これら調査分析に加えて、調査結果を踏まえた「映像制作ガイドブック」の制作など具体的に番組制作作業を支援すべく活動を行った。
  本報告では、今年度の活動概要と調査結果の概略を紹介する。詳細かつ最終的な調査結果は、「エル・ネット『オープンカレッジ』平成15年度番組評価検討報告書」(仮称)に報告する。
     
  〔3〕「映像制作ガイドブック」の制作
     参加大学向けの説明会で事務局が配布している『エル・ネット「オープンカレッジ」講義収録について』に関し、昨年度の講師アンケート調査では「大変参考になった」23.3%、「普通」65.1%、「読んでいない」11.6%であり、概ね良い評価ではあったが、一方で本事業そのものについて「制作準備期間が不足した」37.9%、「受講者像(年齢構成や性別など)を知らなかった」43.3%など、担当講師への事前情報の提供が不十分なものがあることが明らかになった。また、受講者アンケート調査の回答に「文字サイズへの不満」などの指摘が見られることから、映像制作の基礎的な配慮を講師へさらに徹底する必要があることも示された。そこで、講師向けの「映像制作ガイドブック」として改訂作業を行うこととした。
 例えば、使用する文字の書体と大きさ、ページレイアウトをマニュアルとしてさらに読みやすいものにした。また、昨年度の調査結果から必要があると判断したものとして、次の内容を追加した。
 まず、前置きとして、担当講師が本事業の特徴を理解するために、からを追加した。
     
      エル・ネット「オープンカレッジ」について。
 本事業の趣旨と目的、役割を簡潔に概説し、公民館での実際の受講風景写真などを示す。視聴者として想定している参加者像と実際の受講者の年齢層などを紹介する。
エル・ネット「オープンカレッジ」の特徴と他の放送番組の違い。
 放送大学やテレビ放送の教養番組との違いをエル・ネットの独自性を強調して説明する。一般の放送番組と異なり、著作権処理など特徴を踏まえた教育情報衛星通信ネットワークであることなど。
どのような形で利用、視聴されているか。
 活用事例を盛り込む。公民館での受講やビデオブースでの視聴、地元生涯学習プログラムに組み込まれたものなどを紹介する。
番組の中での著作権について。
 引用や著作権処理について、本事業での実際例から学ぶものも組み込む。
     
     続いて、映像制作に関する箇所には、使用する機材やスタッフの役割、テキスト作成にあたっての留意事項、台本作りの意義と見本を追加する。映像編集に関する箇所には、パソコンなどによるノン・リニア編集の基礎知識として、機材や代表的なソフトウエア、編集作業の概略を掲載することとした。
  〔4〕受け手(受講者)による評価1:アンケート調査
  (1)調査方法
      モデル地域の会場で質問紙によるアンケート調査を実施した。
   
  (2)調査期間
      平成15年10月〜平成16年2月。
     
  (3)回収数
      回答者総数は、6地域414名
図1 回答者の年齢構成   図2 回答者の職業など
   
  (4)調査結果
      昨年と同じ項目Q1〜Q8に加え、Q9を追加した。
    Q1 「放送番組」の進み方はあなたにとって速かったと思いますか、遅かったと思いますか?
   
  遅かった どちからという
と遅かった
適当だった どちらかという
と速かった
速かった
全体399名 2.76 9.52 77.94 8.52 1.25%
昨年(328名) 0.91 6.71 82.93 8.54 0.91%
     
    Q2 放送された内容で聞き逃したと思う箇所はありましたか? 
  まったくなかった 少しあった かなりあった
全体399名 35.09 56.64 6.52%
昨年(327名) 34.86 59.63 5.50%
     
    Q3 放送された内容で再視聴したい箇所はありますか?
  まったくなかった 少しあった かなりあった
全体379名 33.25 61.48 5.28%
昨年(320名) 27.81 64.06 8.13%
     
    Q4 放送で使われた各種演出(字幕やパネル、取材映像)は講義内容に合っていましたか?
   
  まったく
合っていない
どちらかという
と合っていない
どちらでもない どちらかという
と合っている
よく合っていた
全体388名 1.80 9.02 13.40 44.33 31.44%
昨年(323名) 0.62 4.95 13.00 39.01 42.41%
     
    Q4-1 「まったく合っていない」、「どちらかというと合っていない」と答えた方におたずねします。「合っていな
  い」と感じたのはどれですか。(複数回答、可)
  字幕 パネル 取材映像 その他
回答数40名 12 21
     
    Q4-2 「どちらかというと合っている」、「よく合っている」と答えた方におたずねします。「合っている」と感じた
  のはどれですか。(複数回答、可)
   
  字幕 パネル 取材映像 その他
回答数40名 12 21
     
    Q5 放送中に登場した講師や出演者の話し方について、どのように感じましたか?
 話し方
  聞き取り難かった どちらかというと
聞き取り難かった
聞き取れた よく聞き取れた
全体387名 2.33 8.27 57.88 31.52%
昨年(328名) 3.96 9.45 44.82 41.77%

 内容
  わかり難かった どちらかというと
わかり難かった
わかり易かった
全体367名 5.72 23.16 71.12%
昨年(322名) 7.14 17.70 75.16%
     
    Q6 放送全体について、どのように感じましたか
  映像について
  単調だと
感じなかった
少し単調だと感じた 単調だった
全体378名 42.86 46.30 10.85%
昨年(324名) 43.83 46.30 9.88%

  講義の進行について
  まったく
感じなかった
少し感じた 単調だった
全体364名 48.08 43.68 8.24%
     
    Q7 「視聴された放送番組」について、良かった点や改善点など気づいたことがありましたら、以下の欄にお書きください。
     7-1 良かった点 (140件)
     
講師の話し方がメリハリありよく聞き取れ満足した。内容も充実しており、新潟県の特徴を明確にしていて、資料が充実していてよかった。(新潟・60代)。
どのような内容の講義を行うのかについて、かなり準備してから行っている点はよかった。(北海道・30代)
講座内容に沿った映像がタイミングよく流れたため退屈することがなかった。(京都・40代)
双方向でリアルタイムにクイックレスポンスできること。(新潟・50代)。
遠隔地での放送(講話)を身近に聴講することができる。(大阪・50代)。
身近な問題で興味が持てた。講義の中で予習復習がされていたのでたいへんよかった。また時間が45分で一区切りされていて、疲れが少なくてよかった。音声も実際に教壇にたって話をされているように感じられ、映像も含め、たいへんよかった。(北海道・70代)。
    7-2 改善点 (133件)
     
テキストと流れが一致していない。(北海道・70代)
題名と講義内容が一致していないように思われる。(千葉・50代)。
もう少し内容を深く掘り下げてもいいのでは…。(大阪・50代)。
話し方が単調で楽しさに欠けているように見えた。(北海道・60代)。
遠隔地での放送(講話)を身近に聴講することができる。(大阪・50代)。
映像のみが流れている場面があったが、簡潔なナレーションを入れてみては?(北海道・60代)。
       
    Q8 日ごろ、教養・教育番組(テレビ)をどれくらいみていますか?印象でお答えください。
  まったく見ない 時々見る よく見る 連続してみている
番組がある
全体376名 4.52 62.77 26.60 6.12%
昨年(328名) 4.88 70.12 20.73 4.27%
     
    Q9 これからどのような講義内容をのぞみますか、自由にお書きください。
Q9-1(内容について)
選択肢 選択者数 自由記述数
 知識・教養を身に付ける講座 186 113件
 趣味を深める講座 95 67件
 社会問題への関心を深める講座 130 85件
 健康・体力作りに役立てる講座 107 68件
 家庭生活に役立てる講座 53 37件
 育児・教育に役立つ講座 20 16件
 仕事のスキルアップに役立つ講座 17 13件
 地域との連携・ボランティアに関する講座 61 30件
 その他   16件

9-2(番組放送の形式について)
選択肢 選択者数
 大学の教室で講義を行うような形式(講師1名による講義形式) 155
 複数の講師陣による討論のような講義形式 53
 司会(聞き手)と講師のやり取りで講義が進む講義形式 87
 その他 13
     
  〔5〕受け手(受講者)による評価2: ヒアリング調査
  (1)調査方法
     今次の調査は、昨年度(鳥取県、宮崎県)に引き続きモデル事業実施地域である札幌市、大阪市の大都市部2か所で実施した。対象者は、30人(札幌12人、大阪18人)でその平均年齢は60代半ば、女性の参加者は10人(札幌6人、大阪4人)であった。
 今回の調査は、地元の生涯学習事業に参加している対象者が「オープンカレッジ」番組に対してどのような意見をもっているのかを調べ、将来の番組制作の参考にしようというものである。大都市の潜在受講者を開拓する方法を探るねらいもあった。
 質問要旨は、昨年度同様@受講番組に対する率直な感想、A映像としての分かりやすさ(画面の見やすさ、講師の話し方)、B望ましい視聴形式、C番組に対しての自由な意見についてである。
     
  (2)調査日時
    平成15年12月20日(土) 札幌市(北海道立生涯学習推進センター)
     
番組: 広島大学公開講座「活性酸素・抗酸化剤」と寿命との関係(4回シリーズ)
第3回、4回を視聴。視聴後講師との質疑応答を双方向でおこなった
    平成16年1月17日(土) 大阪市(大阪市立総合生涯学習センター)
     
番組: 岩手大学公開講座 「啄木の魅力、賢治の魅力」(4回シリーズ)
第2回を視聴した(双方向はない)
       
  (3)調査結果
    番組については、好意的な意見がほとんどであった。
 参加者の多くは多数の講演会と行事に参加する機会が多く、経験豊かな受講者に「オープンカレッジ」がどのように受け止められるのか当初は不安もあったが、結果的には大半の受講生から好意的に受け入れられていた。日常的に視聴している一般番組のマンネリ化に対し“飽き”ともいえる感覚を持ち、今回のような大学レベルの硬派番組に新鮮さを感じたのではないかと推察される。一方、映像や音処理など細かい技術面への厳しい指摘もみられた。
<主な受講者の声>
内容的に質が高く評価できる番組だった。ついて行けたかどうかは別であるが、楽しかった。
講義内容の整理がなされており分かりやすく内容がよく伝わってきた。
もう少し内容を深く掘り下げてもいいのでは…。(大阪・50代)。
地域独自のテーマを研究者が見付け、かなりの専門的な講義をしている。その地元の大学でなければできない内容でたいへん感動した
     
    番組に、大学の講義形式を強く求めている。昨年(鳥取、宮崎)同様、一般番組の形式ではなく体系的な大学レベルの講義を求めている。
<主な受講者の声>
高校程度なら図書館でも調べられる。番組内容は、大学レベルにしてほしい。向学心のある人間は、ちょっと上のレベルに目線を置いている。
程度は下げなくてもよい。勉強する機会を与えてくれればよい。
     
    番組の望ましい視聴は、集団形式である。この点も昨年度(鳥取、宮崎)と同じで、受講者の多くは、集団視聴を求めている。個人視聴で学習するより仲間に支えられながら学習活動を継続していこうという意識である。
<主な受講者の声>
個人での視聴は、勉学放棄の誘惑が多く、集団になると励まし合いがあり継続できる。
主婦は、家で落ち着いて学習ができない。皆のいる会場に来ると集中できる。
集団で視聴すると自分と異なる意見の人もいて、ものの見方がいろいろあることが分かる。
     
    エル・ネット「オープンカレッジ」に対する自由な意見の中には、大学番組の視聴が参加したい市の催しや生涯学習の講座のスケジュールと重複することが多いので困ったという意見もあった。今後の課題としては、広報活動の充実と従来からやや不足していた中年・若年層、そして最大の受講者層と予想される都市部女性の受講者層の獲得であろう。
     
  〔6〕送り手による評価:講師ヒアリング
  (1)調査方法
     昨年度の講師によるアンケート調査を受けて、担当講師ならびに担当事務にヒアリングを実施した。大学を直接訪問し、ヒアリングとともに制作施設の見学と、複数の大学の担当講師らとの座談会形式によるヒアリングという二つの方法で行った。
     
  (2)調査日時
      平成16年1月9日(金) 上智大学。担当講師と担当事務 計3名
平成16年2月9日(月) 東京・霞ヶ関ビル。関東圏四大学講師及び担当事務 計7名
       
  (3)調査結果
     総じて、番組制作については、昨年度の講師アンケート結果を裏付けるものが多かった。
 番組の準備段階での苦労として、「エル・ネットをやる意義は何か」、「どういう人たちが見るのか」、「どんな内容にしたらよいのか」、「見る人が退屈しないためにどう工夫したらよいか」などについて、制作現場で明確にできないようである。
  独自の制作機材とスタッフの有無にかかわらず、また都市圏・地方でも、制作現場が直面している課題は同じであろう。その内容は大別して二つあると思われる。
  一つは「エル・ネットの目的・意義」、「番組の種類・内容」、「受講生の数・質」など基本に関わるものと、二つ目は「台本のつくりかた」、「ロケ撮影のこつ」、「図表やパワーポイントを利用した資料のまとめ方」、「スタジオ制作の手順」、「著作権処理・対策の工夫」など主として技術的なノウハウである。この両方についての説明が不十分なために、現場ではいまだに多くの混乱があるようだ。
 この他に、「受講者からの反応をもっと詳しく知りたい」、「レスポンスがある程度見えないと他の先生を説得できない」、「反省材料として評価の結果が欲しい。それにより現場はもっとがんばれる」、「本事業について博物館の関係者が知らないため、番組制作の際に協力が得られにくい」などという意見があった。
 一方、次のように積極的な意見があり、エル・ネット「オープンカレッジ」の新しい可能性を見いだせたことは今回のヒアリングの成果の1つである。
     
専門家の観点から、社会へより正確な知識・情報を自ら発信したいと考える同僚が多く、本事業に参加した。エル・ネットの視聴者をもっと増やせば、他にも手をあげる先生がいると思う。
本事業は、「地域からの発信」に重点を置くとよいと思う。地域活性化に放送を利用することは、時流に乗ったやり方であり、NHK教育テレビや放送大学とも異なる特色である。
   
  〔7〕2年間の番組評価検討を終えて
     本検討会では、番組評価という観点から受け手と送り手双方を対象に調査を行ってきた。
 番組そのものについては、さらに映像制作の基礎・基本を周知するとともに、エル・ネットの特徴を広報することで、受講者の満足度が得られるものが十分制作可能であるといえる。昨年度報告と重複するものもあるが、よりよい番組作りにとって有効と考えるものを改めて提案する。
     
送り手である担当講師など番組制作者に対し、担当講師が受講者像をつかめる情報、視聴環境の多様性を伝える。
既担当者の経験を新規担当者へ伝える。今回、講師ヒアリングは大学間の意見交換・情報交換の場ともなっており、相互に有益であったようである。また、事例映像集のような参考資料集の制作も有効であろう。

     最後にこの調査を通じて、受講者集団は、集団学習を通じて相互の関係が密であり、生涯学習のコミュニティとして十分に機能しており、エル・ネット「オープンカレッジ」の全国にも通じる地域性豊かな素材を活かせば、地域ごとの生涯学習から全国規模の生涯学習コミュニティ形成への期待と可能性を感じた。

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