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モデル事業


(7)島根大学エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業報告
島根オープンカレッジ活用推進協議会
(島根大学生涯学習教育研究センター)

 
1.事業の経緯
   県域が東西約200kmに広がり、多くの中山間地域や隠岐という離島地域を有し、また高等教育機関も少ない島根県においては、遠隔教育による大学公開講座は、非常に有効な学習形態と考えられる。
 そのため島根大学では、平成9年度より「衛星通信を利用した大学公開講座」のモデル事業に参画し、「地域住民にとって必要性があり、関心が高く、地域性のある内容で、系統的かつ専門性があること」を講座開設の基本的な方針として事業を展開してきた。
 本年度のモデル事業は、これまでの事業を継続発展させることを基本目的としながら、エル・ネット「オープンカレッジ」の地域拠点を設置することによって、広報活動、学習方法の相談・情報提供、及び受講者と受講会場の求めに応じた講座録画ビデオの提供などを通して、「オープンカレッジ」の受信・活用の一層の推進を図るという新しい課題に取り組んだ。
 
2.事業の概要
(1)エル・ネット「オープンカレッジ」を受信する8市町村と島根大学等の担当者および関係者をもって「島根オープンカレッジ活用推進協議会」を結成し、モデル事業の実施母体とする。
 
松江市生涯学習センタービル内に開設されたエル・ネット活用推進地域拠点事務
   
  ※8市町村:松江市、江津市、頓原町、掛合町、石見町、西郷町、会見町、西伯町
 
(2)松江市生涯学習センタービル内に地域拠点を設置し、エル・ネット「オープンカレッジ」に関する広報活動、受講相
 談・情報提供活動を行う。
(3)テレビ番組録画機能を持つパソコンにより「オープンカレッジ」の全番組を録画してライブラリー化を図り、市町村
  や受講者へのビデオテープやDVDの貸し出しを行う。
(4)インターネット上で運用可能なグループソフトウェアを活用して講座情報の提供を行うとともに、録画ビデオ等の要
  求や講座開設のための相談・質問への対応を行う。
(5)地域拠点に個人・グループでの学習活動支援のための受講・学習ブースを設置する。
(6)各市町村における「オープンカレッジ」を活用した講座の受講者数に応じたテキストの印刷と提供を行う。
(7)「オープンカレッジ」活用における地域拠点設置の有効性・利便性に関する調査を行う。
 
 
「エル・ネット活用促進の地域拠点モデル」事業の概念図
   
3.事業の実施状況と成果
   このような仕組みと特徴を持つ本事業を活用して、各参加市町村では平成15年12月〜平成16年3月の間、エル・ネット「オープンカレッジ」の番組による学習メニュー方式の講座を開設した。2月末現在、8市町村で延べ101講座(大学)、396の講義を放映し、延べ1,047人の受講者があった。
 今回参加した市町村は、すべて公民館等にエル・ネットの受信施設を備えているが、講座のテーマや開設時期、講義の配置の仕方によっては、必ずしも放送を直接視聴することはできない。また各市町村で録画をする際にも、タイマーセットを忘れるなどの失敗も往々にして生じるため、地域拠点ですべての番組をパソコンのハードディスクに録画してライブラリー化し、市町村からのリクエストに応じてビデオテープやDVDに出力して送付し、番組活用の支援を行った。送料についてはすべて宅配便の着払いとし、テープなどの媒体については、後日現品にて返納してもらった。貸出本数は合計で83本に達した。
 
  ○ 各市町村の講座開設状況およびビデオ等貸出本数
町村名 講座数 講義数 延べ受講者数 ビデオ貸出本数
松江市 32 127 387 35
(82)
江津市 17 59 339 17
掛合町 24 76 17
頓原町 24 16 なし
石見町 24 26 なし
西郷町 16 63 52 14
西伯町 12 48 113 なし
会見町 24 38 なし
合 計 101 393 1,047 83
(82)

   *松江市のビデオ貸出本数の( )内数字は、受講者個人への延べ貸出本数
 
 
松江コミュニティカレッジの開講式
また、松江市においては、エル・ネット「オープンカレッジ」の番組視聴による学習と、島根大学OB教官の直接講義を組み合わせて「松江コミュニティカレッジ」を開講したが、ここでは受講者へのビデオテープの貸出を実施した。
さまざまな事情により視聴できなかった番組を、地域拠点内のビデオブースや自宅で視聴できるため、思いの外利用が多く、受講期間中に延べ82本の貸し出しを行った。
 DVDはその画質や保存性の高さに加えてシーンの頭出しが容易で巻き戻しの手間もいらず、保管場所も取らないなど、その利用のメリットはたいへん大きいと思われるが、現状では公民館等にはまだあまり配置されていな
いようで、今回もわずか3枚のリクエストがあったのみであった。しかし、今後の利用を考慮すれば、番組のライブラリー化に際してはDVDを活用することが望ましいと考えられることから、地域拠点施設で本年度録画した番組をDVD化して保管する計画である。
 これらのビデオ貸出の受付や講座開設のための情報提供、相談の受付については、電話やFAXでも行ったが、今回はインターネット上で利用可能なグループウェアを導入し、参加市町村の担当者にID・パスワードを発行して登録を行い、グループウェア上の会議室でも対応を行った。
 
 
 今回、使用したソフトウェアは、Webベースでも専用のクライアントソフトとほぼ同等の機能を利用できるという特長を持つ。専用のクライアントソフトは、特別な通信手順を使用するため、庁内LANの整備された施設においては、運用が困難な場合がある。しかし、Webベースでの運用も可能なので、いくつかの市町村には島根大学生涯学習教育研究センターのWebサイトからリンクを張られたこれらのページを利用してもらうことで対応することができた。会議室内にはファイル保管場所も設定し、島根大学が保管する過去の講座ビデオやテキスト等のデータベースファイルも提供するなどして、市町村担当者に対する講座開設のための支援を行った。
 また、松江市の「松江コミュニティカレッジ」においては、約40名の受講者のうち、インターネット利用者が10名ほどあったので、希望する人にはID・パスワードを発行して専用の会議室とスケジュールカレンダーを開設し、随時講座の情報を提供したり、質問や相談を受け付けられるようにした。

グループウェアの画面
(上が専用クライアント、下がWebベース)


   
 
事業の成果についての担当者の意見
放送時間が基本的に平日の日中と言うこともあり、番組を録画してライブラリー化されることで、住民のニーズに応じて講座の開設時間帯を設定できることはたいへんありがたい。
市町村や公民館の職員だけでは、他の業務の合間に番組の録画等を円滑に行うことが困難な場合もあるので、地域拠点で集中して録画・ライブラリー化されることは講座の企画・実施の上で有意義である。
グループウェアの利用によって、他の市町村の講座の内容等を参考にすることができた。ビデオテープの貸出依頼については、電話でできる場合もあるが、会議室への投稿によって、地域拠点事務局の開設時間外でもできる点がよかった。ビデオテープの送付についても、着払いや現物による後日支払いのシステムはこちらのニーズに応じて迅速に対応してもらえる点でありがたかった。
過去に放送された番組についての情報もグループウェア上で提供してもらったので、講座の組み立てに参考にすることができた。
放送を収録したビデオライブラリーは公民館の貴重な財産であり、今後もこれらを有効に活用し、住民の求めに応じてリクエスト講座を開設していきたい。
受講者の意見(松江コミュニティカレッジ)
地域拠点に受講者の交流スペースが確保されたことがよかった。学習メニュー方式の学習では、受講者間の交流を図ることがなかなかできないが、今回は講義の合間や終了後に受講者同士の交流ができてよかった。
講義の上映時間にどうしても都合がつけられないこともあったが、その際には柔軟にビデオ
テープの貸出をしてもらえてよかった。
 
   このように、市町村の担当者からは、地域拠点施設での集中的な番組の録画・ライブラリー化が、市町村の講座企画・実施において有意義であったことが報告されている。また、グループウェアの導入によって、講座内容の企画やビデオテープの貸出をより円滑に行うことができたこともうかがえる。
 また、松江コミュニティカレッジの受講者においては、地域拠点内に設置された交流スペースやビデオテープの貸出対応が、学習をより楽しく円滑に進める上で、大きな支援につながったように見受けられる。
 
4.今後の課題
 
今後の課題についての担当者の意見
地域拠点での番組のライブラリー化を踏まえて、今後は講座の夜間や土日開催を検討し、勤労者層に配慮した講座の企画を行っていく必要があると感じている。
エル・ネット「オープンカレッジ」の放送は10月から2月にかけてであるが、ライブラリー化された番組をもとに、年間を通して地域住民に活用してもらえるような方法を考えてみたい。
エル・ネットを通じて文部科学省の説明会や研修が数多く放送されるようになり、「オープンカレッジ」の番組と別チャンネルで重なることもあるので、今後も地域拠点による集中的な録画とライブラリー化、および情報提供をお願いしたい。
冬期の開講は、地域の特性として雪に悩まされることが多い。(受講者の交通の便など)今後はライブラリーを活用して、他の時期の開講を検討する必要がある。
グループウェアの操作方法がややわかりにくく十分活用ができなかった。IT初心者でもわかりやすいマニュアルの作成や、事前の研修機会が必要ではないか。
グループウェアの導入は、参加市町村担当者間の情報交換や、講座企画のための情報収集において意義があると思うが、事務局サイドからの情報提供をさらにお願いしたい。
受講者の意見(松江コミュニティカレッジ)
地域拠点に受講者の交流スペースが設置されていてよかったが、講義の感想を述べあったり、お互いの学習に対する思いを語り合ったりできるような、より多くの受講者と交流ができる機会や手段の設定をお願いしたい。
   これらの意見に見られるように、エル・ネット「オープンカレッジ」の豊かな学習資源をさらに有効に活用するためには、今後も地域拠点による番組録画・ライブラリー化を継続して進めるとともに、市町村の担当者との連携をいっそう強め、地域住民のニーズや地域の特性に応じて、より柔軟な講座の企画や運営が図られる必要があると感じる。
 また、今回導入したグループウェアは、市町村の担当者と事務局との情報交換や相談、担当者間の情報交換の促進などの点において一定の成果を上げたものと思われるが、現状として担当者や公民館等の施設職員の情報機器活用能力は一様でなく、一方、講座の受講者についても高齢者が多いこともあり、ソフトウェアの基本的な操作や活用の方法についての学習機会や、わかりやすい操作・活用マニュアルなどを提供していく必要がある。
 なお、昨今は高齢者にも携帯電話の普及が急速に進んでいるので、携帯電話のインターネット機能(電子メール)を活用し、グループウェアと携帯電話を連動させた情報提供の方法を検討してみることも考えられる。受講者側からのメールの発信とまではいかなくても、事務局からの情報を受信・閲覧できるだけで意味がある。
 こうした機能をさらに有効に活用できれば、市町村担当者の講座企画・運営業務や、受講者への臨機応変な情報提供、受講者間の交流などに対する大きな支援となりうる可能性を感じることができたので、今後も引き続いて検討課題としていきたい。
   


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