戻る
モデル事業 

2.事 例

(1)道民の学習機会を拡充するエル・ネット「オープンカレッジ」の活用
    〜高度で専門的な学習ニーズに対する継続的な学習機会の提供〜

エル・ネット「オープンカレッジ」モデル事業実施委員会
(北海道立生涯学習推進センター)

1.はじめに
 
 

北海道においては、学習成果の活用や学習成果を生かした社会参加へのニーズが増大しており、学習成果を様々な形で生かしながら、創造性豊かな社会を実現することが重要な課題となっている。
  一方、地域コミュニティが衰退する中で、地域課題を地域の人々が自分の課題として考え、行動し、解決していくことにより、地域社会の活性化を推進することが、自治体行政の最大の課題の一つになっており、生涯学習による地域社会の活性化の必要性が認識されるに至っている。今後、地域社会がまちづくりを進め、その課題、特に現代的課題といわれる青少年の健全育成や少子・高齢化、健康、福祉、自然・環境問題などを解決していくためには、道民一人一人の生涯学習活動の充実を図ることが不可欠となっている。
  また、北海道は、他府県に比べて面積が広大であることから、現状においては、あらゆる道民が道内に散在する学習機会を自由に選択して学んだり、道外の講師を招いて講座等を開催するには、地理的・時間的・物理的(予算)な制約が大きな障壁となっている。このため、インターネットや衛星通信などのメディアを活用した遠隔学習の環境づくりを進めることも大きな課題となっている。

 

2.事業の概要

(1)事業の経緯
   本事業の委嘱を受けるに当たっては、北海道における生涯学習の一層の推進を図るため、道民の多様化・高度化する学習ニーズに対応した学習機会の拡充及び北海道の広域性をふまえた学習機会の提供のあり方等をはじめ、道民カレッジ事業や道立生涯学習推進センター附属視聴覚センターとの連携を視野に入れたモデル的事業を行い、当モデル事業実施委員会が事業の評価と分析、考察をすることとした。
 具体的には、地域連携型・施設企画型と拠点施設設置型のエル・ネット「オープンカレッジ」事業を推進する中で、北海道らしい学習機会の提供方法や場の設定、並びに広報の有り様や学習プログラム(内容)の工夫をはじめ、ビデオ教材のライブラリー化に伴う普及・啓発とその活用等について探ることとした。
 
(2)地域連携型・施設企画型事業について(イベント事業の推進:テレビ電話会議システムの活用)
 

広域的連携
 エル・ネット「オープンカレッジ」の普及啓発はもとより道民の学習活動を一層支援するために、道立生涯学習推進センターと苫小牧市教育委員会(苫小牧市立中央図書館)の共同により、大学の講師と札幌、苫小牧の会場を結ぶ公開講座(衛星放送)として事業を組み立て実施することとした。事業実施にあたっては、道立生涯学習推進センター附属視聴覚センター、道民カレッジ事務局とも連携を図り、受講者の募集、衛星通信視聴(受講)会場の機器設置(テレビ会議システム等)を順次行いながら、運営(スタッフの配置含む)のあり方及び、広域連携による学習者のメリット等を探っていくこととした。
 なお、公開講座の周知については次のような取組を行うこととした。
 札幌会場は、札幌市内の区民センターや図書館等の公的施設と周辺の市町村教育委員会に対しチラシによる広報、並びに道民カレッジ学生へのメール・はがきでの案内を行い、苫小牧会場は、健康・スポーツに関わる指導者に対する広報活動を行った。

公開講座の企画・実施
 北海道では、道民の生涯学習を総合的に支援し、自立した北海道を創造する人材の育成をねらいとした道民カレッジ事業を実施しており、主催講座(放送講座)をはじめ、産学官の連携による連携講座として、ほっかいどう学、能力開発、環境生活、健康・スポーツ、教養の5コースを設定し、道民カレッジ事業の受講生を募っている。
  本事業を企画するにあたっては、これらの学生を含め多くの道民に、エル・ネット「オープンカレッジ」事業を周知し、参加を呼びかけるために、道民カレッジ生の興味・関心が比較的高く、かつ、高度なレベルの学習内容を設定した場合にどのような評価が得られるかを視点に、健康に関わる分野の講座を選択することとした。中でも、広島大学による公開講座は、マスコミ等で今時の話題となっている「活性酸素・抗酸化剤」と寿命の関係の番組であると同時に、講義内容が段階的に高度になっていくことが推測されることから、受講者の評価(反応)をみるには最適と捉えた。
  なお、札幌会場は、道民カレッジ事業の連携講座として位置づけ、道民の学習ニーズを捉えた学習内容、レベル、継続性等を考慮した講座の組立てとし、苫小牧会場は、指導者養成・研修の講座として事業を企画した。

学習プログラムの企画(時間、継続性)
 札幌会場は4回にわたる放送番組をすべて公開講座として実施し、苫小牧会場は、1回目と2回目を12月20日の受講者に対する事前学習会として実施した。
最終の4回目の講義は、札幌・苫小牧会場と講師を結ぶテレビ会議システムを用いたイベント事業とし、受講者と講師が交流を行うことができる時間を設定した。
 また、開催日時・学習時間・曜日は受講者の参加形態(交通・年齢層等)及び継続的な学習に配慮し、次の日程プログラムを組み実施することとした。

 
 
(3)拠点施設設置型について(ライブラリー事業)
   道立生涯学習推進センター附属視聴覚センター機能の一環として、衛星通信による公開講座をビデオ収録し、視聴覚教材とする一方、活用方策として試写室(ビデオ等視聴室:15名程度利用可)において、道民に対し生放送番組を視聴できる学習サービス提供を行うこととした。
 また、エル・ネット「オープンカレッジ」ビデオ教材の目録をホームページ(生涯学習ほっかいどう)で情報提供するとともに、ライブラリー事業のPR用チラシを作成し、各市町村教育委員会等へ周知するとともに、附属視聴覚センターが進めているインターネットによる予約貸出システムの開発に当事業も組み入れ、道民へのサービスの向上を図ることとした。
 さらに、実施委員会では、エル・ネットの一層の普及・啓発を図るため、2月に佛教大学公開講座「京都の暮らしとまち〜京都らしさを求めて〜」の第1回目の番組を道民カレッジ連携講座「京都探訪セミナー」という事業名で行い、以後の放送番組のPRを含め、ビデオ教材の活用と貸出利用を呼びかけることとした。

3.事業の成果と課題
(1)学習機会と場の提供方法等
     公開講座名を「知って得する健康セミナー」とし、学習時間を1日、2コマ4時間に設定したことは、受講申し込みの状況から見て(札幌会場は100名を越す申し込み)、受講者には親しみのあるやさしい事業名であっ たことと、学習内容の質と学習者の疲労 度を考慮するならば妥当と思われる。ま た、テキスト以外に、実施委員会が関連 する資料(活性酸素を撃退する食品:抗 酸化剤、活性酸素発生源、ビタミン・ミ ネラルに関するもの)を受講者に配布し たことに対しては、身近な生活の中で考 えることができたという評価を得ており、 講義を補足する(専門性を実際生活に活用する)意味で効果的な取組であったと考える。 また、テレビ会議システムの活用は、 講義を視聴するだけの形態で解決でき ない学習課題を講師との直接の質疑に より解決できるとともに、2会場にお ける受講者のさまざまな質問は、学習 者の捉える問題意識の違いを明確にし、 お互い刺激になるとの声も寄せられて おり、広域連携と併せて有用な手段で あると考えられる。
  一方、札幌会場、苫小牧会場ともに受信設備と受講会場の確保が容易であったため、担 当者との連絡調整を綿密に行うことで講座の進行等、運営はスムーズに行われた。
  なお、苫小牧会場の進行には、推進センターの職員(社会教育主事)を派遣した。
  課題としては、テレビ電話会議システム等を含め、機器操作に熟知した職員がいること が企画・実施する上での前提条件である。
  広報活動については、札幌会場は道民カレッジ生を中心とした道民への案内、苫小牧会 場は公共機関を通じて専門的な立場の指導者への案内と、受講対象者を想定した取組を行 ったことによって、受講者の確保もスムーズに行われたことから、学習内容によって広報 案内を絞り込むことも効果的であることが明らかになった。
  ライブラリー事業については、PR等を12月から段階的に進め、1月からは本格的な取 組としてビデオ教材貸出、視聴提供活動を実施してきた結果、2月20日現在、ビデオ教材 貸出数43本、個人視聴者9名、団体視聴者延108名という状況になっており、今後、ます ますの活用増が見込まれる。
  ただし、特定のビデオ教材に貸出予約が集中する場合も見られることから、複数本用意 することも検討しなければならない。
  なお、2月10日(火)に実施した佛教大学による「京都探訪セミナー」の講座には、道民カレッジ学生を中心に約100名の参加があり、歴史・文化に関する学習機会を求めていることが伺える。
 また、公開講座実施後にビデオ教材の貸出予約が増える傾向にあることから、定期的に、公開講座を企画しながらPRすることが効果的であると同時に、エル・ネット「オープンカレッジ」ライブラリー事業の一層の周知方法を検討する必要がある。
   
(2)具体的な取組成果
  遠隔学習による、北海道の生涯学習の推進
 <道民カレッジ事業(連携講座)に位置づけた公開講座の活用>
高度で専門的なレベルの学習と継続的な学習機会を低コストで提供することができる企画・運営の方法を構築できたこと。
受講者同士の交流と次の学習意欲への発展が見られたこと。
道民カレッジの学生に対して、エル・ネット「オープンカレッジ」の周知が図られたことによって、今後の利活用が期待できること。
北海道の広域性を考えた場合、ライブラリー事業は、最新の高度で専門的な学習機
会を道民に提供する最適の手段であり、生涯学習活動の活性化が期待できること。

情報提供(普及・啓発)
講座案内を道民カレッジの学生にダイレクトメール(はがき含む)送付したことによって、エル・ネット「オープンカレッジ」の公開講座を多くの学生に周知することができたとともに、公開講座実施日におけるライブラリー事業のPRは、ビデオ教材の利用者の拡大に繋がったこと。(口コミで知人・友人に広められた)
市町村教育委員会や区民センター等へ公開講座、ライブラリー事業の広報を行ったことにより、エル・ネットと同時に、道民カレッジの受講(学生登録)に関する問い合わせも多く見られるなど、道民の学習活動の活性化に繋がったこと。

施設としてのメリット
道立生涯学習推進センター(附属視聴覚センター)、苫小牧市立中央図書館は、何をしているところか、何ができるのか等、活動内容を道民や市民にPRすることができたこと。
ライブラリー事業を活用した公開講座は、予算面等低コストで開設することができるとともに、生涯学習推進センターでの運営に際しては、専門的職員である社会教育主事を担当させることにより、施設機能を発揮することができたこと。

(3)受講者の感想等
  @受講者の状況
 
年齢の高い受講者が多いが、これまでの趣味・教養的な学習活動から、地域課題、生活課題を見据えた専門的で高度な学習を個人レベルで求めていること。  
公開講座などによる、集団での学習形態を希望する人や、学んだことを仲間や地域に還元したいと考えている人が多いこと。  

Aアンケートの調査から
 
    【広島大学公開講座】
広島大学の講義が札幌で学習でき
る時代でよかった。何度もこのよう
な方法があると良い。
手元のテキストと照らし合わせて講
義を受けることができるのは良い。
日常生活ではなかなか聞くことがで
きない講義内容であり、生活に役立
てることができる。
人数を限定したやり方は、学習する上で良いと思う。  

【佛教大学】  
12月の時は、「映像である」ということを生かしきれていないように思えた今回は映像が工夫されていたと思う。
講義の間に、京都の街のビデオが入り、メリハリがあってよかった。  
放送で一方通行の講義・まとめをテキストに入れてほしい。
基礎的なことを知っていると分かり易い。
   
4.今後の展望
   エル・ネット「オープンカレッジ」は、高度で専門的な大学の講義内容であることから、受信施設では補助的講師(講義の補足・説明等)を配置して、定期的に公開講座として実施することが効果的であると考えられる。しかし、平日の昼間に、1回当たり2時間程度の放送が4回シリーズで続くものについては、仕事を持つ多くの成人は受講が困難である。
  したがって、広く人々に対する学習機会の提供として活用するためには、様々な対象者に対応できるよう、60分程度の講義、レベル別・段階的な学習内容等を考慮した録画テープの編集、補助資料の作成、講座内容の解説等を工夫することが求められる。また、講師と全国の受講者同士が集い、学習をさらに深め合う交流の機会が必要という声もあることから、スクーリング等の開催が望まれる。
  また、エル・ネット「オープンカレッジ」のより一層の活用を図るため、道立生涯学習推進センターでは次年度、受講者(カレッジ学生等)自らが講座を企画・運営することができるようなボランティアグループの育成を検討しており、公開講座をモデル的に実施しながらその人材を発掘していく方向でいる。
 
なお、インターネットによるビデオ教材の検索及び貸出予約システムについては、平成16年4月から本格運用する予定であり、今後の利用を期待しているところである。

戻る