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5年目のエル・ネット「オープンカレッジ」
エル・ネット高度化推進委員会 座長
齋 藤 諦 淳

 
(1)  今、教育、研究関係の分野で、通信衛星放送がいろいろな方面で利用されている。
 そのひとつが通称el-Netといわれている「教育情報衛星通信ネットワーク」である。このネットワークは、大きく分けて三つのサービスを行い、一つには学校教育関係者などを対象にした研修番組、もう一つには文部科学省ニュースなど文部科学省からの情報発信事業を行っている。
 研修番組や、情報発信のほかに更にもう一つのel-Netの事業は、一般の人々を対象とした学習番組の提供である。
 その一般の人々に対する学習番組の提供の事業の一つがエル・ネット「オープンカレッジ」である。
 エル・ネット「オープンカレッジ」は、予定された大学の公開講座を収録し、全国でel-Netの受信局のある公民館などに放送し、受講生が集まってきて集団学習するものである。平成11年から始まり、同年11月11日、明治大学講座「国際シンポジウム」の第1回の講座「アジアの政治・経済概況」が大学からライブで各公民館などの受信局に放送された。続いて、同12月1日に亜細亜大学の「教育の国際化」の第1回、前国連大使小和田恆氏の
講演「21世紀の国際人になるために」が放送され、話題を呼んだという。
 それから5年間、エル・ネット「オープンカレッジ」は673講義の収録をして放送で講
義を公開し、一定の成果をあげてきた。
 
 
(2)  ところで、そもそもエル・ネットとは何かを簡単にみてみよう。
 これは、平成11年度からスーパーバードB号という衛星を使用してはじめた教育情報衛星通信放送のネットワークである。
 技術的にはVSATというシステムを利用し、小さなアンテナで受信できるという特色がある。また回線の制御はHUB局という中央局で行うため、各々の子局に必要とされる無線従事者が不要であるという便宜がある。このため、教育の分野で文部科学省が教育、学習の施設の関係者に各種のプログラムを提供したり、相互に情報交換するのにまことに便利である。
 エル・ネットは、具体的には国立教育政策研究所をHUB局とし、そのほかVSAT局と称している送信および受信の機能を有する施設がある。これは文部科学省をはじめ、国立科学博物館、国立オリンピック記念青少年総合センターや全国の教育センターなど30か所をこえる。
 送信も受信もできるVSAT局のほかに、受信機能のみの施設が全国に2,165局(平成16年1月31日現在)あり、多くの人々が番組を受けることができるようになっているのである。番組を受ける施設は、教育センター、教育委員会事務局、生涯学習センター、公民館、図書館、博物館、文化会館、学校などと実に多岐にわたっている。
 もともと通信衛星放送は、サービスの広域性や同時性などを確保できる特徴をもっているが、通信衛星放送の中でもこのVSATは、広域、同時に情報を普及、交換するのにたいへん有効なシステムなのである。
 このような特徴をもっているVSATを利用して、教育に関するあらゆる情報を提供するネットワークとしてel-Net(教育情報衛星通信ネットワーク)が平成11年7月から運用されたのである。
 エル・ネット「オープンカレッジ」の前身的な取り組みとしては、平成8年度から3年間実施された「衛星通信利用による公民館等の学習機能高度化推進事業」がある。つづいて平成11年度から実施された、エル・ネット「オープンカレッジ」はその成果を踏まえたものである。
 
   
(3)  当時、マルチメディアは時間的な制約や、空間的な制約をこえて多数の人々に多様な学習の機会を提供する、また活用の工夫によっては、視聴する者の主体的な学習活動を支援する手段として利用できる、その一環として通信衛星放送を生涯学習に活用できないかということが関係者の関心事項となってきた。
 こういう考えから、上にふれた平成8年度からの「学習機能高度化推進事業」がはじめられたわけであるが、さらに文部省の生涯学習審議会では平成11年に「学習の成果を幅広く生かす」という答申を出し、「新たな情報手段を活用した高等教育機関による学習機会の拡充」という項をもうけ、通信衛星を活用した公開講座の拡充を提言した。
 生涯学習審議会では平成11年の答申についで、平成12年に「新しい情報通信技術を活用 した生涯学習の推進方策について」の答申を出し、エル・ネットの活用方策を提言した。
 エル・ネット「オープンカレッジ」はこれらの方針から始まったもので、事業の仕組みとしては、やや複雑であるが次のようになっている。
 つまり、まず文部科学省から委託を受け、財団法人日本視聴覚教育協会(井内慶次郎会長)と財団法人衛星通信教育振興協会(宮地貫一理事長{当時})で関係者および学識経験者からなる高等教育情報化推進協議会(会長井内慶次郎)、および推進委員会(座長齋藤諦淳)を設置し、大学公開講座の実施内容、実施方法、番組の運用体制、今後の推進方策などについて協議を進めるとともに、平成11年11月から放送を開始したのである。
 今回で5年目をむかえ、平成16年度以降の今後の発展を期して、この報告書は5年目の事業のあり方をまとめようというものである。
 なお、平成11年度からのエル・ネット「オープンカレッジ」の大学公開講座の参加大学数と講義数は次のとおりである。
  平成11年度  27大学  123講義
  平成12年度  50大学  172講義
  平成13年度  46大学  154講義
  平成14年度  53大学  116講義
  平成15年度  33大学  108講義
      (大学数は、参加大学の数)
 
   
(4)    この報告書としては、平成15年度に実施した各事業の概要、特に本年度力を入れた双方向質疑の事例などを紹介する。
 また、主として教育方法について調査研究を行ったモデル事業の報告、および委員会を設けて検討した「広報委員会」、配信のための教材のあり方を検討した「モジュールコンテンツ検討委員会」および「番組評価検討会」の調査研究の成果を報告することとしている。

 5年間にわたり事業推進に尽力していただいた方、および平成15年度事業の概要をこの報告書に取りまとめるにあたって協力を得た関係者の方々に、厚くお礼を申しあげる次第である。

 

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