●長野県の事例報告


1 モデル事業実施にいたるまでの経過
松本市中央公民館では、10月からエル・ネット「オープンカレッジ」を活用したモデル事業の取り組みをスタートした。実施に先立ち、中央公民館で内容等を検討した結果、現在中央公民館に設置されているエル・ネット受信設備が十分に活用されていないこと、設備のある中央公民館ふれあいロビーにより多くの人が集えるよう工夫することが急務となっていること、モデル事業であるため松本市独自の方法を生かしながら事業実施が可能なこと、などの点から、モデル事業を受け入れていく方向性を打ち出した。
また松本市には公民館長の委嘱による住民からなる公民館委員が組織されているが、その中の視聴覚委員会の活動に位置づけられるといった面もあり、視聴覚委員を母体としたモデル事業実施委員会を設置することとした。


2 モデル事業実施委員会の設置
モデル事業実施委員会は10月より正式に委嘱を受け活動を開始、事業実施に向け「オープンカレッジ」をどのように活用するか協議を行ったが、そのなかで次の点が確認された。一つは、中央公民館が位置する施設(公民館・保健センター・女性センター・福祉ひろばの複合施設)の利点を生かして活用していくこと、もう一つは、これまで築き上げられてきた松本の公民館活動・地域住民の学習活動に活かしていけるような取り組みをしていくことである。そのなかで放送予定プログラムからいくつかを選択し、選択した放送(オープンカレッジ)を委員が事前に視聴していくこと(録画)で、より住民の学習要望に応えられる講座となること、そしてオープンカレッジを単に視聴して感想など意見交換するだけでなく、実施した講座が今後、住民の学習活動の発展につながっていくことに主眼をおいた取り組みをしていくことが確認された。


3 実施した事業
単に放送される日に人を集めるだけの活用方法は難しく、むしろ公民館や地域で展開されている既存の事業や活動などを生かし、より住民に密着した活用方法を考えるという視点から、メニュー選択型(従来から公民館等で施設独自の講座を開設していたが、効果向上のためエル・ネット「オープンカレッジ」が提供する講座を加えて実施する、という方式)による事業を実施した。実施した事業は次のとおりである。

・レクリエーションコーディネーター等有資格者フォローアップ研修・インストラクター資格取得講座
・中央公民館「介護と人権」講座(一部)
・保健センター・福祉ひろばでの活用
・利用団体活動のなかでの視聴
・番組表等を施設カウンターにて周知・リアルタイム視聴の受付
・各種事業をまとめた記録の発刊

以上の取り組みを進めてきたが、具体的事業としてモデル事業の一つの柱ともなる、レクコーディネーター等有資格者フォローアップ研修・インストラクター資格講座について以下に紹介したい。


4 有資格者フォローアップ研修・インストラクター資格取得講座の概要
『エル・ネット「オープンカレッジ」を活用したら…』の呼び掛けで実施されたこの講座は、長野県下全域を網羅したレクリエーション指導者養成等を目的とする団体・信州レクリエーション協議会と共催で実施した事業である。実施にあたり、モデル事業実施委員の一人にこの協議会の顧問をやられている方がいたのも、講座を企画運営するうえで大きな力となった。
仙台大学「スポーツと健康・福祉」を録画して活用、12月から2月まで全4回にわたって実施され、延べ120名の参加者を得た。
講座の内容は、@公開講座ビデオの視聴、Aグループディスカッション、Bティーブレイク、Cディスカッションの報告である。ディスカッションは講義内容やテーマに基づき、小グループでKJ法などを用い、参加者が自分自身の経験や実践と公開講座の内容を照らし合わせながら意見交換し、それをグループごとに報告するものである。講座の中にティーブレイクを設けたのは、ビデオの視聴や意見交換などでの参加者の疲れを癒すことも目的だが、このような場を設けることで参加者同士が新たな出会いやふれあい・ネットワークを築くことも目的としている。
コーディネーターは信州レクリエーション協議会役員が行ったが、事前の視聴から公開講座のねらいを把握し、それを実際のレクリエーション活動や地域福祉の現状、地域の実態と照らし合わせて、グループでどのような話し合いを進めていくかを検討した後、講座に臨んでいただいた。コーディネーター自身、レクコーディネーターや福祉レクワーカーなどの資格をもち、実際に地域で実践しておられることもあり、参加者にとって、より身近な話題の中からディスカッションができる講座の設定が可能となった。
また講座がすべて終了した時点で反省会を行ったが、コーディネーターから次のような意見が出されたので、以下に記してみたい。
「公開講座すべてが作られる時点でどのような方法で活用するのかというイメージはあったのだろうか。エル・ネットと聞くとだれもが時代の先端をいく学習手段と考えるが、それに応えるためにも、公開講座の内容・ねらい・番組制作の意図を詳しく広報するとともに、対象者・視聴する地域の地域性・住民のニーズをしっかりと把握したうえで、番組がつくられるべきだろう。その点からいくとまだ十分とは言えないかもしれない。」



5 松本市の公民館としての今後の課題と活用方法
(1)録画放送による活用について

モデル事業実施委員会では、放送タイトル・講座名・大学名・講師名のみの情報だけでは実際のオープンカレッジの詳細が分からない点、また参加される人々が、より自分自身や地域の問題と結びつけ、考えていけるよう、事前に放送内容を視聴することが必要であると判断した。そのためリアルタイムの視聴は公民館で周知するのみとし、具体的な事業はオープンカレッジを録画して活用することとした。
録画活用の利点は、事前にコーディネーター等が視聴するため、講座内容と対象者(参加者)を結びつける工夫や段取りをあらかじめ考えておくことができるということである。
松本市では、講座参加者が一方的に講義を受けるだけでは一過性の活動に終わってしまい、学習の成果がその後の暮らしや地域に生かすことが難しいということから、相互学習や参画型学習を実施し、学んだことを地域に返そうと事業に取り組んでいる公民館が多い。それは松本市の公民館が地域や住民の暮らしにこだわった事業を展開してきたという、公民館の歴史からもうかがえる。
その意味で与えられた講義を参加した住民に一方的に聞かせるのではなく、今回の場合のように、地域の特性などを配慮して講義内容を参加者自身の問題としてとらえ直す仲介役としてのコーディネーターが、事前に視聴しておくことができるという録画の活用が事業実施において有益だったといえる。


(2)既存の活動に生かす
松本市は、かねてから公民館活動や地域住民の学習・文化・スポーツ活動が盛んな地域である。そのためこの「オープンカレッジ」を利用し、まったく新しい事業を組み立てていくよりも、既存の活動に「オープンカレッジ」を活かす方法を実施した。この方法により、既存の学習活動が「オープンカレッジ」という一つの学習の選択肢を得ることとなり、学習活動のさらなる広がりが期待できるようになった。アンケート回答の中にもあるように「地元地域に居ながらにして、遠隔大学の講義が聞ける」というのは、まさにそういった学習手段の幅が広がったということではないだろうか。
しかし一方で公民館活動に参加する住民は限られている、という言葉も聞かれる。既存の活動を充実させ、そこから学習活動そのものの広がりと新たな人の広がりを考えていくことも重要なことであるが、それとプラスして更に多くの住民の、公民館への参加を考えていく必要があるだろう。その意味での一つのきっかけとして、「オープンカレッジ」を活用した新しい事業の展開も、今後検討していかなくてはならないだろう。もちろん新たな事業展開を図るうえでも、松本の公民館活動が築き上げてきた理念を忘れてはならないということはいうまでもない。


(3)地区公民館・町内公民館などでの活用
松本市には各地区に公民館があり、各町会には公民館が組織されている。それらは、より身近な課題や話題について学習や交流を切り口にして、地域づくりの推進拠点ともなっている。その他にも福祉の公民館といわれる福祉ひろばが各地区に整備され、公民館や町会と一体となって福祉のまちづくりを推進している。これらの活動に「オープンカレッジ」を活用するのも一つの方法である。
地域の問題をより広い視点から考えるには、高等教育機関で現代的・社会的課題をどうとらえているかを知り、その視点から自分たちの身近な部分にどう照らし合わせていくかといったことも考えることが大切になってくるのではないだろうか。その意味で「オープンカレッジ」を地区公民館・町内公民館などで、一つの学習材料として役立てていくことも、今後考えていかねばならないだろう。
いずれにせよ、「オープンカレッジ」自体もまだ始まったばかりであるので、松本市に見合った様々な方法について、今後、十分に検討していかなくてはならない。

(長野県松本市中央公民館主任 高橋信光)