●広島県の事例報告


T 事業の概要

広島県エルネットオープンカレッジモデル事業実施委員会(委員7名)を設立し,エルネットオープンカレッジ公開講座の佛教大学公開講座「少子・高齢社会への対応」を活用し,次の4点の内容について調査研究を進めた。
1 テレビ会議システムを活用した双方向学習の有効性
2 視聴とワークショップ(話し合い活動)を組み合わせた学習形態の有効性
3 放送と対面学習を組み合わせた学習形態の有効性
4 学習ボランティアによるエルネットオープンカレッジ活用方策

講座の概要は,次のとおりである。
講 座 名 少子・高齢社会への対応 公開講座提供大学 佛教大学




T
講座名 高齢化の現状と今後の課題
日 時 平成13年1月20日(土)13:50〜16:00
講 師 佛教大学社会学部社会福祉学科教授   永 和 良之助
講座の特 徴 衛星通信による講座視聴後,京都の会場の講師とテレビ会議システムを利用した質疑をおこなう。







U

 
講座名 子どもの発達保障と子育て・子育て支援T
日 時 平成13年2月 3日(土)13:50〜16:00
講 師 佛教大学社会学部社会福祉学科専任講師 丸 山 美和子
講座の特 徴   衛星通信による講座視聴後,質問やもっと深く学習したいことなどをワークショップ(話し合い活動)でまとめる。それを講師にインターネットホームページを活用してリクエストをし,2月10日の講座内容につなげる。
講座名 子どもの発達保障と子育て・子育て支援U
日 時 平成13年2月10日(土)13:50〜16:00
講 師 佛教大学社会学部社会福祉学科専任講師 丸 山 美和子
講座の特 徴 2月3日の受講者からの質問やもっと深く学習したいことなどのリクエストに応えて,講師が直接県立生涯学習センターで講座をおこなう。

調査研究内容4の「学習ボランティアによるエルネットオープンカレッジ活用方策」を検証するため,企画運営ボランティアを募集し,7名のボランティアにより講座の企画運営を行うこととした。



U 調査研究内容の分析
この調査を検証するため,各講座の終了時に受講者にアンケート調査を行った。
受講者の講座への評価についての回答は,もっとも肯定的なものに4点,以下順に3点,2点,1点と得点を与え,その平均値によって分析を行う。この場合の中位点は2.5点であり,評定平均値が2.5よりも高い場合はその項目に対して肯定的な評価が得られたことを示し,2.5よりも低い場合は,その項目について否定的な傾向にあることを示している。

基本的内容について まず基本的内容として,ハードウェアに対する評価,講座内容に対する評価,衛星通信を利用した遠隔講座の印象について,分析する。
ハードウェアに関する設問の結果を表1に示す。

(表1)ハードウェアについての評価

  設      問
← 否定的評価 肯定的評価 →
1.0  1.5   2.0   2.5  3.0   3.5   4.0
Q1 画面の画像は見やすかった 講座T       ●3.00  
講座U           3.58
Q2 画面による提示物はよく見えた 講座T       ●2.57    
講座U            ◎ 3.48
Q3 テレビ会議システムの画像の遅れは気にならなかった           ●  
        3.35  


Q1の「画面の画像は見やすかった」では,講座Tでは3.00,講座Uは3.58という評価であった。Q2の「画面による提示物はよく見えた」の設問は,講座Tでは2.57,講座Uは3.48という大きな差が生じた。これらの差は,ハードウェアの種類によるものであると考えられる。講座Tでは,プロジェクターを中心に25インチモニタ8台を利用した会場(写真1)であったが,講座Uでは,42インチのモニタを中心に2台の32インチモニタを利用した。(写真2)
講座では,テキストを活用するため,会場の照度はある程度保障されなければならないが,講座Tでは,プロジェクタの画面の輝度を保つため,会場の照度を落とさなければならなかったことが問題があったと考えられる。実際,16人の参加者が否定的評価(1点6人2点10人)を行った。見えにくい画面で小さな文字での資料の提示は受講者にとって,疲労感を増すようである。


(写真1) 講座Tの会場風景















(写真2)  講座Uの会場風景



Q3の「テレビ会議システムの画像の遅れは気になったか」という設問は,講座Tで活用したテレビ会議システムでの質疑の時間の映像に対する評価である。3.55という評価で,主催者が心配したほどの否定的評価ではなかった。これは,質疑の発信がテレビ会議システムであるが,講師の回答は衛星通信を利用するため,違和感がなかったことと,会場の音声調整をおこなうことにより,発言者の声と衛星通信から送られる音声のずれを感じさせない方法をとったからであると思われる。

次に,講座内容に関する設問の結果を表2に示す。








(表2) 講座内容に関する評価

  設      問
← 否定的評価 肯定的評価 →
1.0  1.5   2.0   2.5  3.0   3.5   4.0
Q4 講義内容はわかりやすかった 講座T       3.66  
講座U           3.9◎
Q5 テキストは役に立った 講座T         3.74
講座U         3.75  ◎
Q6 講義の長さは適当であった 講座T         ●3.51
講座U           ◎3.65


Q4「講座の内容はわかりやすかったか」の設問は講座T3.66,講座U3.9という高い 評価を得ることができた。否定的評価はどちらの講座も0人。両講師とも講座の内容がわかりやすく,また,話しぶりがソフトであるため,遠隔講座であることを忘れさせるような雰囲気があったからだと考えられる。
Q5は「テキストは役に立ったか」という設問には,講座T3.77,講座U3.75という高得点を得た,これは,テキストがよくできていて,講座の概要がわかるような仕組みになっているためであると思われる。しかしながら,講座Tでは,プロジェクタの画面の照度を保持するため,会場を暗くしなければならなかったため,テキストが見えにくいという否定的評価もあった。
Q6は講義時間の長さについてであるが,今回の講座は講座T62分間,講座U63分間であった。ほとんどの参加者は肯定的評価をだしている。否定的評価を行った2点3人(講座TUとも)は,講座が短いという意見であり,90分ぐらいの講座を希望している。

次に,衛星通信を利用した遠隔講座の印象の分析について記述する。
Q7〜9は,衛星通信を利用した遠隔講座の印象についての設問である。(表3)
(表3) 遠隔講座に対する受講者評価

  設      問
← 否定的評価 肯定的評価 →
1.0  1.5   2.0   2.5  3.0   3.5   4.0
Q7 一般の講座に比べて親しみやすい         ●    
      2.93    
Q8 一般の講座に比べて運営に混乱がない          
        3.14  
Q9 一般の講座に比べて全体的に良かった          
        3.12  


Q7「一般の講座に比べて親しみやすいか」については,2.93であり,4点は20.5%,3点が52.3%,2点が27.3%であり,衛星通信を利用した講座を受ける受講者が,新しい教育メディアに慣れるような取り組みが今後とも必要になるのではないだろうか。
Q8の設問では,講座運営の混乱や,講座の全体的な印象を伺ったものであるが,全般的に肯定的な評価を得ている。また,Q9「一般の講座に比べて全体的に良かったか」という設問に対しても3.12という肯定的な評価を得ている。
学習にはリアルタイム性も必要であるが,それ以上に学習者にとってのインタラクティブな活動の保障が重要である。

調査研究内容1 テレビ会議システムを活用した質疑の有効性
講座Tでの研究課題である「テレビ会議システムを活用した質疑の有効性」を検証するものである。(表4)
Q10「質疑の時間があることで理解が深まったか」という設問には,3.44という高い評価を得るとともに,Q11では,質疑の時間の必要性について3.61の得点を得ている。これは,一方向性の講座の配信だけではなく,受講者の学習の深化をはかるためには,質疑等の時間を保障することが重要であることを示しているものである。

        
(表4)テレビ会議システムを活用した質疑の有効性

  設      問
← 否定的評価 肯定的評価 →
1.0  1.5   2.0   2.5  3.0   3.5   4.0
Q10 質疑の時間があることで理解が深まった         
        3.44  
Q11 質疑の時間は必要である          
          3.61
Q12 質疑の時間の長さは適当であった          
      2.86    

Q12の「質疑の時間の長さが適当であったか」という設問では,2.86という低い得点であった。否定的評価をした11人(2点8人1点3人)の全員が時間が短かったことを指摘した。質問希望者は19名に上り,質問数は20件であった。しかしながら,質疑の時間内(45分間)に質問に答えられたのは5件しかなかった。
これらのことより,衛星通信を利用した公開講座を有効なものにするためには質疑の時間などを保障する取り組みが必要であることが証明されるものである。


調査研究内容2
視聴とワークショップ(話し合い活動)を組み合わせた学習形態の有効性
講座Uのエルネット講座視聴後に,企画運営ボランティアがファシリテータとなってのワークショップとして,講座視聴の感想や問題点,もっと深く学習したいことなどを話し合う時間を設定した。その話し合い活動に関する評価を表5に示す。


                 
(表5)視聴とワークショップ(話し合い活動)を組み合わせた学習形態の有効性

  設      問
← 否定的評価 肯定的評価 →
1.0  1.5   2.0   2.5  3.0   3.5   4.0
Q13 話し合いの時間があることで理解が深まった         
        3.35  
Q14 話し合いの時間は必要である          
        3.58
Q15 話し合いの時間の長さは適当であった          
      2.95    

(写真3)アイスブレイク指導のボランティア
















(写真4)話し合い風景


エルネット講座視聴後,6〜8人の小集団による話し合い活動を設けた。企画運営ボランティアがファシリテータとなり,緊張した気分をほぐすアイスブレイクをしたり,記録を行ったりして,受講者の話し合い活動を支援した。40分間の時間設定を行っていたが,どのグループも時間延長を行うほど,活発に話し合いが行われた。
その結果,Q13「話し合いの時間があることで理解が深まった」に3.35の高い評価を与えている。否定的評価を与えているのは3名(2点)であり,3名ともQ15で話し合いの時間が短いという評価を与えているため,話し合いの時間が短いため,十分な理解ができなかったという理由ではないかと思われる。
Q14「話し合いの時間は必要である」にも受講者は高い評価(3.58)をしている。
Q15の「話し合いの時間の長さは適当であったか」の設問は,2.95であった。否定的評価(1点2名2点4名)のすべてが時間が短いと指摘している。
これらのことから,一方的な講座の視聴のみでは,学習者のニーズは満たされず,視聴とともに,インタラクティブな学習活動を併用することの重要性が示されるものである。


  調査研究内容3 放送と対面学習を組み合わせた学習形態の有効性  最終日2月10日は,講座U「子どもの発達保障と子育て・子育て支援」の丸山講師を広島の会場に招き,エルネット視聴後の話し合い活動でリクエストをした講座内容により直接対面講座を行った。
Q16は,リクエスト講座の実施により,自分の学習が深まったかという設問であるが,3.38の得点を得た。Q17の今後の実施の機会の必要性は,3.69であり,参加者の77%が4点の肯定的評価をしている。

(写真5)リクエスト講座風景


















(表6)放送と対面学習を組み合わせた学習形態の有効性

  設      問
← 否定的評価 肯定的評価 →
1.0  1.5   2.0   2.5  3.0   3.5   4.0
Q16 リクエスト講座の実施により、自分の学習が深まった          
        3.38  
Q17 今後もリクエスト講座の実施の機会が必要である          
          3.69


このことから,学習者は,ただ単に講座を視聴するだけではなく,自分が持っている学習課題を深める話し合い活動を行い,それにより深化させた学習内容による学習を進めることができるリクエスト講座の有効性が示されると考える。


調査研究内容4 学習ボランティアによるエルネットオープンカレッジ活用方策
実際に公民館等において,エルネットオープンカレッジを活用する際,学習ボランティアによる自主的な学習活動が期待される。そこで,本事業では,企画運営ボランティアによる運営方策について検討をおこなった。
これについては,事業実施委員会委員長の寄稿を「V事業の成果・今後の課題」に掲載し,検証に代える。



V 事業の成果・今後の課題
学習支援ボランティアによるエル・ネットオープンカレッジ活用の可能性
広島県エルネットオープンカレッジモデル事業実施委員会委員長 日下部 眞 一

生涯学習にかかわる情報基盤が整備されていくことは,特に大都市からはなれた地域に住む人にとってはなにより嬉しい話しであろう。「いつでも,どこでも,だれでも」学習することができる手段としては,衛星通信による学びの配信は大きな可能性を秘めている。平成8年度全国で最初に行った【現代ボランティア論】では移動中継車の配備など,かなり大がかりな事業であり,かなりの緊張感をもたされた記憶が残っている。しかし,双方向性がある公開講座の効果は大きなもので,会場は受講生の熱気であふれることになった。しかも,課題が<ボランティア>であったので,受講者自身が講座支援ボランティアとなって参加できたことはひときわ参加意識をかきたてたようだ。
昨年度からの新しい試みは,このような衛星通信による公開講座をもっと身近に利用できる生涯学習基盤の整備が目的である。もちろん,公開講座自体の内容や配信等についての課題もあるが,最大の課題は受講生がいかに容易に受講でき,かつ,学習について十分な満足感を得ることができるかであろう。こういう点からは,従来の,公開講座方式という形式で受講するだけでは十分な満足感を得ることができないように感じられる。
したがって,地方の公民館で受講する場合は次の二つのような場合が考えられるのではないだろうか。
(1)受講生の中には,何らかの課題を持って参加しているような人も多く,そのような人にとっては参加型の課外講座を設定しておかねばならない。
(2)さらに何人かが共通の課題をもって自分たちのグループ学習の一環として公開講座を受講するというような場合も考えられる。
このような受講者側の受講のノウ・ハウを探る目的で今回,学習支援ボランティアがどのような役割を果たすことができるのか,また,どのような役割が必要とされるのかということを考えるためにこの事業に取り組んだ。
事業自体の開始が遅かったため,ボランティアが課題設定へ参画出来なかったことが残念であったが,講座配信前後の企画運営には十分活躍していただくことができて,しかも,十分な成果を得ることができたように思われる。

このような事業の中で得られた受講生像は次のようになるであろう。
公開講座の受講生は,一人の単なる受講生ではなく,受講生同士がある程度課題を分かち合ったり,各人の多様な理解の仕方をお互いに分かち合うことも各人の理解を深めるのに大切なことのようである。そして,講師の方との質疑応答という形式だけでなく,参加者同士がお互いに議論し合って課題についての理解を深め,さらには,受講の機会にあらたなつながりが生まれて,地域の課題を考えていく,そして行動するきっかけが創られたりし始めるのである。
したがって,学習支援ボランティアには学習についてのコーディネーター力が必要とされることになる。つまり,グループをまとめていく力,課題についての学習の企画・運営力,課題によっては指導を仰ぐリソースパーソン(人材)の発掘,探索が要求される。おそらく,一般のボランティア組織やNPOの運営法と異なることはないようである。しかし,従来の講座聴講のみの公民館講座開講方式とは全く異なる力量が必要とされるようである。
どの地方の公民館も,職員数は限られておりしかも,今日の情報化の中での生涯学習の支援を十分行うことが出来る職員数はきわめて少ないであろう。それには,学習支援ボランティアや地域の人材を十分に育てて活躍の場を確保していくことが,エルネット事業の発展性をもたらすかどうか,また,このような情報化の力で地方の生涯学習が活性化して地域力が成長するかどうかの一つの分かれ目になるのではないだろうか。こういう意味で,エルネットは地域競創時代の重要な手段の一つとなるであろう。

(写真6)打ち合わせ中の企画運営ボランティア



















(写真7)講師を交えた企画運営ボランティア会議

















(広島県立生涯学習センター 新田憲章)