●岐阜県の事例報告

1・実施委員会
岐阜県図書館では、県図書館職員の他に生涯学習施設の関係者や学校関係者、市町村立図書館の職員により「教育情報衛星通信ネットワーク高度化推進事業モデル事業実施委員会」(委員9名)を組織した。また委員会での助言などを仰ぐため、アドバイザーとして岐阜女子大学文化情報研究センター所長の後藤忠彦教授を迎えた。
第1回の委員会を11月8日(水)に開き、数多く放送される講座のうちどれを受講対象とするか、受講場所が図書館であることを活かすにはどのような方法があるかなどを検討した。各委員ともそれぞれ所属する施設の事業のなかで、市民、県民の生涯学習機会を求める声が高まっていることを実感しており、ふだんから多くの利用者が訪れる(年間約85万人)図書館で公開講座を開く意義は大きいという意見であった。しかし同時に、これまで図書館で行ってきた展示会や講演会とは性格の異なる事業なので「図書館でそういうことができる」ことを利用者に知ってもらうことが難しいとの指摘もあった。
受信する講座は検討の結果、地元大学の講座、図書館・生涯学習関係の講座、図書館の重点収集分野に関係するものとした。具体的には以下の通りである。

・徳島大学講座「職人に学ぶ〜技の伝承と文化〜」
・岐阜女子大学講座「観光と文化」
・岐阜大学講座「児童英語教育への誘い」
・常盤大学講座「コミュニティーの振興を考える」
・図書館情報大学講座「現代社会と図書館」

また、図書館の資料を有効に活かすため、講義中に紹介された資料やテキストの末尾に掲載されている参考文献などのうち所蔵しているものを挙げ、受講者が自由に閲覧できるようにすることにした。



2・広報
広報活動としてはポスター(カラー・A2版)を作成して関係機関での掲示を依頼するとともに、県図書館内でチラシ(モノクロ・A4版)を置いた。デザインとしては主として高等教育情報化推進協議会がポスター・ホームページに用いていたキャラクターを、著作権上の問題がないかどうかを確認したうえで、流用させていただいた。これらの素材を自由に使用できたことは、広報にかけられる時間が少ないなかで、非常に助けられた点である。

なお、配布先は以下の通り。

配布先 部数
県教育委員会1
県内各教育事務所6
市町村教育委員会96
生涯学習センター1
総合教育センター1
県民ふれあい会館1
県内大学図書館17
市町村立図書館42
館内用・予備・その他35
 200

また、県図書館ホームページ上での広報も行った(http://www.smile.pref.gifu.jp/library/lnet.htm)

実際にに参加した受講者は、県図書館のチラシを見て知ったという方が最も多かった模様である。生涯学習センターなどで「エルネット・オープンカレッジNews」を見た方から、「この講座を受講できないか」という問い合わせもあった。
全体的には、広報活動の開始から講座の開講までの期間が短かったため、情報を十分に広められなかったことは大きな反省点として挙げられる。



3・公開講座の実施
講座を実施した日時と参加人数は以下の通り。
   講  座  名      日    時 方法 人数
「 職 人 に 学 ぶ」     1/13 10:00〜14:30 録画 15
「 観 光 と 文 化」 第1回 1/19 10:00〜14:30
第2回 1/25 10:00〜11:30
第3回 2/1  10:00〜11:30
録画
リアルタイム
リアルタイム
10
9
10
「児童英語教育への誘い」 第1回 1/20 10:00〜14:30
第2回 1/27 10:00〜14:30
録画
録画
8
8
「コミュニティーの振興を考える」     2/10 10:00〜16:30 録画 10<
「現代社会と図書館」 第1回 2/22 10:00〜14:30
第2回 3/1  10:00〜14:30
録画
録画
15
14

開催場所は県図書館の研修室を用いた。他事業との兼ね合いなどの理由から、放送をリアルタイムで受講することができない講座の方が多くなったが、あらかじめ録画して準備ができることにより参考資料の用意がしやすいといったメリットがあった。しかし一方で、講師・受講者間の双方向コミニュケーションが困難というデメリットも解消し得なかった。「エルネット・オープンカレッジ」ホームページに開設された質問コーナー掲示板(http://www.opencol.gr.jp/board/)は双方向性の確保という点で有効な手段と思われる。録画の講座で受講者から講師への質問があった場合には、主としてこの掲示板を使用することを想定したのだが、実際にはすべての講座について掲示板が用意されたわけではなかったことが残念である。


受講の様子(図書館情報大学講座・3月1日)

図書館所蔵の参考資料の紹介は、まずリストを作成し、そのうち貸出中でないものは現物を直接閲覧に供するという形で行った。例として岐阜女子大学講座「観光と文化」(第1回)で用いた参考資料リストを挙げる。

●当館でご利用になれる参考図書(貸出中のものを含む)
・「観光白書 平成12年」総理府,2000
・前田勇編「現代観光学キーワード事典」学文社,1998
・浦達雄「観光地の成り立ち」古今書院,1998
・増田辰良「観光の文化経済学」芙蓉書房,2000
・山下晋司「バリ 観光人類学のレッスン」東京大学出版会,1999
・「岐阜県観光振興行動計画」岐阜県企画部観光課,1996
・「岐阜県観光レクリエーション動態調査結果書 平成11年」岐阜県農林商工部交流産業課,2000
・「岐阜県生涯学習総合情報システム」岐阜県社会教育施設情報化・活性化推進実行委員会,1998(パンフレット)
・「岐阜県生涯学習総合情報システム基本操作の手引き」岐阜県社会教育施設情報化・活性化推進実行委員会,1999

紹介する資料は講師が講義またはテキスト中で挙げた資料が主だが、中には前もって講義を視聴した担当者が参考として有用と判断して選んだものもある。
講義に対する関心や理解を深めるに資するとともに、「図書館にこういう本があるとは知らなかった」と、受講者からは大変良い評価をいただけた。
図書館の役割としては、すでに一般的になっている資料貸出と同等に、利用者の調査・研究の補助をするレファレンスサービス(参考調査)が重要である。その意味でもオープンカレッジの参考資料を紹介するという活動は有意義であった。


4・図書館資料としての利用
講座が終了した後、録画したビデオテープは図書館資料として一般のビデオ資料に準じて受入れ、利用者が館内のAVブースで随時視聴できるようにした。研修室を用いた講座が多人数を対象として、主催側が設定した日時に行われるのに対し、図書館資料として受入れた講座はただ一人の利用者が、自分の都合のいい時間に受講することができる。これにより自由時間の少ない勤め人や主婦にも、より多くの生涯学習機会を提供することを意図したものである。また、急用などで研修室での講座に出席できなかった受講者に対するバックアップの意味も大きい。もっともこの点では、無理に研修室での講座に出席しなくてもいいという安心感があるせいで、当日の講座では出席者数が減少したきらいもある。
また、研修室での開講を予定していない講座で、利用者から是非にとの要望があったものについても、録画し図書館資料として受入れるこの方法で対応した。これは、以前岐阜県内の高校で教師をしていたことのある講師の公開講座が「エルネット・オープンカレッジ」に含まれているのだが、受講できないかという高校関係者からの要望に応えたものである。
この方法の問題点としては、受講者と講師とのコミュニケーションがほとんどとれないということが挙げられるだろう。また古い内容の講義をいつまでも保存しておくことについても、長期的には問題が生じる可能性がある。「オープンカレッジ」を継続的に収集するならば、保存年限を検討する、講座を保存し閲覧に供していることを大学・講師に周知するといった体制を整える必要があると考えられる。



5・事業の成果と今後の課題
成果としては、学生から高齢者まで幅広い層の利用者が気楽に訪れることのできる図書館で公開講座を開くことで、講座を開いた各大学や「エルネット」の存在をより身近に感じさせる一助になったであろうことが挙げられる。図書館資料としての保存や、館内AVブースでの個人受講など、新しい受講の形を提示することもできたのではないだろうか。資料を有効に活用できること、まだポピュラーなものとは言い難いレファレンスサービスについて、利用者にアピールする機会ができたことなど、図書館側としても意義は大きい。
一方、今後の課題としては、受講者や受講施設と大学・講師との双方向コミニュケーションを密にすることが第一に挙げられるだろう。これは各受講施設が積極的に講師・大学と接触をもつ必要があることは言うまでもないが、高等教育情報化推進協議会に仲介の場を設けていただければ、より円滑な連携・情報交換が図れると考える。また、公開講座を発信する大学側からのアプローチにも期待したい。
今回の事業では県図書館が主となって公開講座の計画から運営までを行った。しかし図書館では単発の教養講座・講演などを行った経験はあるが、受講者が講座を受けた実績を具体的な形で示したり、それを蓄積して公的な評価につなげていく体制が現時点ではとれていない。また、そういった体制づくりや講座の計画運営に専従できるような人的資源も不足している。今後の活動としては、図書館、あるいは生涯学習施設が単独で事業を行うより、例えば講座の企画・運営は生涯学習施設で、参考資料の収集や講座テープの保存管理、継続して学習・研究をする受講者の支援などを図書館で受け持つというように、複数施設の連携、役割分担も必要になってくるのではないだろうか。
(文責:渡辺基尚・岐阜県図書館資料課逐次刊行物係主事)