.生涯学習におけるeラーニングの活用事例

 
実践事例4.青少年教育指導者研修における試行
 

 国立オリンピック記念青少年総合センターは、青少年教育指導者その他の青少年教育関係者及び青少年に対する研修、青少年教育に関する施設及び団体相互間の連絡及び協力の促進、青少年教育に関する団体に対する助成金の交付等を行うことにより、青少年教育の振興及び健全な青少年の育成を図ることを目的とする青少年教育施設である。

1. IT活用学習プログラム開発調査研究
   平成14年度より、当センターの調査研究として「青少年教育施設におけるIT(情報通信技術)を活用した学習プログラムの在り方に関する調査研究」を開始した。ITを活用した学習プログラムの開発と事業展開の検討、事業分析に関する研究を進め、調査研究の一環として平成15年度よりeラーニングを取り入れた試行事業を行った。
   
2. 活用するメディアと通信方法
   富山インターネット市民塾協議会が運営する「インターネット市民塾」のシステムをベースとして、eラーニングはWBTを中心として進めた。受講者にはユーザーIDを発行し、受講する講座のテキストや動画の閲覧とともに、掲示板による情報交換を進めた。また、講座によっては、他のシステムを使った複数のメーリングリストを活用した。

 青少年教育実践e−研修サイト(http://nyc.shiminjuku.com/)を独自に立ち上げ、事務局では、利用者登録、コンテンツ管理、利用者管理、学習進捗状況管理をサイト内で行った。
   
3. 講座概要
   eラーニングによる研修は、調査研究の一環として行っているため、平成16年度は、それぞれ異なる展開で4講座を実施した。受講者は、青少年教育施設職員、青少年教育団体関係者、ボランティア、自然体験活動や環境教育に興味のある方々で、年齢は、20代から70代まで、地域は北海道から沖縄まで、4講座(図1)で95名が参加した。

サイエンスサポートセミナー(33名)…科学体験活動ボランティア研修(実技研修あり)
アイスブレイク入門講座(35名)………事業開始時の雰囲気づくりを考えるための講座


  図1 異なる展開の4講座

自然体験活動実践事例講座(11名)……自然体験活動に関する企画を作成する講座
環境教育プログラム入門講座(16名)…「木」をテーマに環境教育を展開(実技研修あり)

   
4. ブレンディングによる展開
 
図2 サイエンスサポートセミナー
 サイエンスサポートセミナー(図2)は、約1ケ月の事前研修と2泊3日の実技研修を組み合せて実施している。2泊3日の実技研修の参加者は、中学生を対象とした1泊2日の「中学生科学体験セミナー」をサポートするというボランティア活動の体験をともなう。したがって、事前研修において、実験の原理、手順、指導のポイントなど各参加者が習得していなければならない。 受講者の学習意欲は高いが、多くはボランティア活動で科学体験活動を行っている方々であることから、レポート等の課題については、過度の負担にならないようにしている。また、実技研修に向けて、ニューズレターによる情報提供を行い、モチベーションの維持に努めた。ニューズレターの内容は、受講者全体の受講状況、レポート提出状況、科学体験活動に参加する中学生の応募理由、実験に関する連絡などであった。受講者からは、「基礎知識を得てから参加ができ良かった」「セミナーへの意欲をかきたてる」「時間的制約が弱くて良い」「マイペースで学べる」などの感想があった。ほとんどの参加者は実技研修が必要であるとしている。残念ながら、コンピュータの故障により事前研修がうまくできなかったという参加者もいた。

 動画コンテンツによる実験の実例なども事前研修で示しているが、知識の習得と実際の実験の技術には大きな開きがあることも事実である。インターネットによる事前研修は、あくまでも知識の習得が主となり、参加者レベルの統一化と、発想法、思考法の習得には適しているが、実験技術の習得に関しては実技研修が必須となる。平成15年度においては、事前学習時におけるドロップアウトは3名、平成16年度においては出張他の理由で参加できなかった方以外は、全員実技研修に参加することができた。
   
5. インターネットのみによる研修
   ブレンディングを伴う場合は、実技研修実施の際にインターネット研修で不足している知識等についても補うことができるが、インターネット上だけで研修を行う場合は、受講者に「学習している」という意識を持ってもらわなければならない。そのためには、受講者の学習意欲そのものが学習成果の鍵を握る。「アイスブレイク入門講座」(図3)を例にあげる。アイスブレイクとは、研修事業などが始まる際に、緊張をほぐし打ち解けた雰囲気を作るための活動である。

  図3 アイスブレイク入門講座の展開

 「アイスブレイク入門講座」は、課題の提出と講師のコメントによって学習を進める方法とした。課題の提出は、メールや掲示板とした。掲示板への参加者の自己紹介は100%であったが、レポート2で94%、レポート3で80%、レポート4で57%、期限内に最終レポートが提出された割合は31%であった。学習者のモチベーションを維持することは難しく、課題が途中までになってしまった受講者の理由は、「子育て中」「まとまった時間がとれない」などさまざまである。講師には、提出期日後もコメントをもらうなど配慮をお願いした。

 「自然体験活動実践事例講座」は、最終課題の企画書の完成において1名の講師が3〜5名の受講者を指導するという少人数の形態とした。グループごとにメーリングリストを作り、最終的に12日間に限定してグループで個々の企画書の完成度を高めた。少人数による講師との密接な指導を行うことができ、受講者からは、「終盤になって講師の先生をあたかも自分の専任講師的に立て続けに指導願えることができたことに大変満足」との評価を得られた。少人数に限定することによって綿密な指導は可能であるが、講師の時間の制約等があり、数名の指導が限界である。課題の提出状況は、課題1(自己紹介)100%、課題2(Q&A)が82%、課題3(企画書)が73%、課題4(最終企画提出)が55%となり、少人数であっても社会人研修の難しさを示す結果となった。

 受講者の学習場所等に関するアンケートを行ったところ、ほとんどの受講者が自宅で夜間や休日に学習していると答えている。課題の提出期間も休日明けにするなど、受講者の実態を考慮する必要がある。
   
  まとめ
    eラーニングの長所は、受講者にとってはいつでも都合のよい時間に学習できることだが、事務局や講師の取り組みも受講者動向に左右される傾向となる。課題の提出は、締切前に集中するため講師に過度の負担がかかることや、メール等の問い合わせに事務局が常時答えていかなければならないことなど、さまざまな受講者への対応はeラーニング運営上の避けては通れない課題である。

 青少年教育指導者を対象とした研修では、資格検定のように一定の基準で合否を判定したり、特定の知識体系を習得する講座と違い、個々の学習者の学習意欲が最も重要となる。意欲が十分であっても、受講者の知識・経験の差が多様であることから、課題提出に求めるレベル、期間の設定、遅延者へのケアなどを検討しなくてはならない。

 一過性の集合研修とは違い、事前事後の受講者、講師とのコミュニケーションは、研修の価値をより一層高めるためにつながる。また、ネットワーク上で各参加者の持つ情報を共有しながら学習集団を作っていくことは、学習レベルの均一化や課題に対する受講者間のフォローなど、学習継続意思を保ちドロップアウトを防ぐための方策となる。実技研修を伴わない場合は、ネット上だけの研修となることから受講者を孤独にしないケアが必要である。


(独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター  事業部事業課主任研修指導専門職 桜庭 望)