.生涯学習におけるeラーニングの活用事例


実践事例3.通信制高校


1. 拡大する通信制高校の市場
 
表 通信制高校の学校数
 通信制高校は全日制の高校とは異なり、毎日通学する必要のない高校であり、ほとんどが単位制である。年に10校程度増えており、全国の通信制高校の数は現在152校(表)で、生徒数は約20万人にのぼる。生徒募集可能地域により、狭域制と広域制に分類され、広域の場合は全国からの生徒募集が可能である。

 毎日学校に通う全日制に対して、通信教育による自宅学習中心のため、毎日登校しなくても高校卒業資格を取得できる。学習内容は次の4点が基本になる。

レポート(学校から渡される提出課題)を期限どおりに提出する。
指定されたスクーリング(面接指導)に出席する。
ホームルームなどの特別活動(各学校によって異なる)に参加する。
単位認定試験を受ける。

 卒業の基準は、学校に3年以上在籍すること、教科・科目の修得単位数の合計が74単位以上であること、卒業までに30時間以上の特別活動(ホームルーム活動含む)に出席することが条件になる。

 このように柔軟な教育システムを採用していることから、従来から不登校生徒や通学の困難な生徒の受け皿的役割を担ってきているが、価値観の多様化により、最近では、スポーツや芸術、語学など個々の目標達成に専念するために、通信制高校を選択する生徒も増加してきている。
   
2. eラーニングの活用
 

写真 ライブ授業の画面
 eラーニングの最大の特徴は、いつでもどこでも自分のペースで学習できることであり、自学自習が基本の通信制高校の生徒にはeラーニングのメリットは大きい。2003年の高等学校学習指導要領一部改正により、2004年4月からインターネットなどの多様なメディアを利用して行う学習を取り入れた場合、スクーリング(面接指導)の時間数又は特別活動の時間数の6/10まで、複数のメディアを用いた場合は8/10まで免除できるようになった。これによりインターネット等を利用した遠隔授業の導入で、スクーリングの時間数を大幅にカットすることが可能となり、eラーニング導入による学校側のメリットも大きくなった。

 弊社のWeb学習システムは、インターネットテレビ電話及びテレビ会議システムを活用した、1対1の個別指導と1対Nのライブ講義による遠隔スクーリングを簡単に運営できるのが特長である。インターネット個別指導は、学習・進路・生活相談や保護者からの相談など、サポート窓口としての機能を果たす。また、手書き入力装置を活用した電子レポート添削により、添削作業の効率化とスピードアップを実現する(写真)。

 導入校では、これらの機能を活用し、スクーリングの運営コストを削減するとともに、フェイス・トゥ・フェイスの遠隔学習により、生徒一人ひとりのニーズに応じたきめ細かい教育を実施している。海外留学中の生徒と先生との交流や心を閉ざしていた生徒が学校に出てくるようになった等、どこからでも対面で話ができることで、先生と生徒や保護者との新たなコミュニケーションの形が生まれているようだ。

 新設校では特に、eラーニングによる教育指導による個に応じた教育の実践や、専門的教育指導など、学校の特長作りに積極的に活用する学校が多い。海外校や国内の専門学校、大学等の教育機関と提携した専門教育や職業教育の実施など、今後の進展が期待される。
   
3. eラーニングの課題と対策
  (1)モチベーションの維持
 自学自習が基本のeラーニングは、孤独になりがちであり、学習継続が困難である。講師との触れ合いや受講者同士の励ましなども少なく、モチベーションの維持が課題である。通信制高校においても同様であり、途中退学者が多いため、公立校では3年間で卒業できる生徒が2割程度といわれている。通信制高校の生徒の学習サポートを専門とするサポート校が全国に設置されており、生徒の学習指導を行っている。

 eラーニングを利用した場合も、このサポート校と同様に、生徒一人ひとりの進度や理解度、状況に合わせてきめ細かくサポートする仕組みが必要である。生徒が学習に躓いたときに質問や相談ができること、先生が必要に応じて生徒に声をかけること、生徒同士が意見交換できることなど、対面学習に近い環境を実現し、暖か味のあるeラーニングシステムが求められる。弊社では、フェイス・トゥ・フェイスの個別指導・ライブ講義を活用した双方向指導、先生の音声や手書きによる添削解説による指導、掲示板やチャット等により、先生と生徒、生徒同士の多様なコミュニケーションを支援している。

(2)学習目的の具体性
 上述したモチベーション維持のためには、具体的な学習目標の設定が不可欠である。学習成果として、学位取得や資格取得、希望職種への就職など、学習目標が具体的に見えることが、学習継続への一番の動機付けになる。一般にeラーニングは導入効果が見えにくいとされているが、明確な目標設定があれば導入効果は目標達成率で評価でき、eラーニング活用も進展していく。通信制高校のeラーニングの目的は、高校卒業資格の取得であり、この点は明確である。eラーニングの進展により、今後の卒業率向上が期待される。

(3)eラーニング活用能力の育成と推進体制
 教育においては、教える側と教わる側が存在するが、IT技術を活用するeラーニングにおいては、教師が必ずしもIT能力が高いわけではない。授業におけるパソコンの使用、ソフトウェアの操作、効果的な教材の作成と提示、授業進行方法、生徒の理解度把握など、対面授業と異なる技術や能力が求められる。このような技術的問題のほかに、eラーニングにおいては、一部の先生は熱心だが、その他の先生は関心が薄いなど、先生方の取り組み姿勢の差が大きい。効果的にeラーニングを推進するためには、組織目標と運用体制を明確にし、現場の教師が共通認識を持って行うことが求められる。eラーニングはツールでしかなく、それを活用してどう教育するかが問題になる。  eラーニングは今まで不可能だったことを可能にする力があり、教育の可能性を限りなく広げることができるツールである。中等教育におけるeラーニング活用では、通信制高校が牽引役となり、新しい学校教育のスタイルを築いていくだろう。eラーニングの普及のためには、システム提供側は、教師・生徒が使いやすいシステムを追及していく必要があるが、教育サービスの提供者である学校がどうeラーニングを活用して、教育の質を向上させるかが一番大きな問題である。eラーニングを活用した生徒との温かい交流、教育サービスの充実を学校側に期待したい。


(イー・ステージ株式会社取締役 市川 秀明)
   
実践先からの報告「つくば開成高等学校」
   
実践先の概要
 

写真 ライブ授業の画面
 つくば開成高等学校は、2003年10月に開校した単位制広域通信制高校である。本校が茨城県牛久市にあり、現在1,270余名の生徒が学んでいる。多種多様な状況におかれた生徒の可能性を伸ばしたいと考え、フェイス・トゥ・フェイスのきめ細やかな個別学習指導を実践している。
   
eラーニングシステムを活用している実践の規模
   生徒全員につくば開成高校のWeb学習システムを利用できるIDを配布。電子レポート添削やテレビ電話サービスの利用は申込制にしている。不登校の生徒など、学校に来られない生徒が主に利用している。
   
受講者数
   教材は全員利用できるが、電子レポート添削やライブ講義などの本格利用は、2005年度からスタートする予定である。
   
導入経緯
   通信制高校には不登校や海外留学、スポーツや芸術分野を優先しながら、あるいは働きながら学ぶなど、さまざまな生徒がいる。そういった生徒の状況に合わせたきめ細やかな指導をするために、インターネットを活用した個別指導や集団学習を導入した。
   
経過
   学校に来られなかった生徒が、インターネットテレビ電話での教師との交流を通して(写真)、登校への自信をつけ、学校に来られるようになったり、留学の生徒と教師が学習相談ができるなど、生徒や保護者にも好評である。インターネットの用途は多岐にわたる。
   
運用体制
   本校や各学習拠点と自宅をテレビ電話で接続し、生徒がどこにいても好きな先生に質問や相談ができる体制にしている。また、生徒同士の交流の場としても利用できる。
   
課題とその方策
   教師全員がeラーニングを活用した授業の実施方法やレポートの添削方法など、指導方法を研鑚して、生徒の学習意欲や将来の夢を育てるように努力する必要がある。教師が常に生徒との対話を大切にし、生徒のことばに真摯に耳を傾けていけば、eラーニングがますます効果的な指導方法となり、生徒の可能性がさらに広がると確信している。

(つくば開成高等学校理事長 糸賀 修)