.国内における最新の学習資源提供機器利用調査

実践先訪問調査(1)
〔ソフトウェア〕 《映像ソフトウェア》
インタラクティブビデオ制作用オーサリングソフト

映像を直感的に操作して、倒立前転・とび前転を理解する

(1) 機器機能
   本ソフトウェアは、直感的な操作が可能なインタラクティブビデオを制作するオーサリングソフトである。一般的なビデオ映像は、再生、一時停止、巻き戻し等の機能で操作するが、本ソフトウェアで制作したインタラクティブ映像は、被写体の一部をつかんだ感覚で操作できるようになる。使用方法は、映像内の被写体の動きに合わせたパス*を設定し、そのパスをなぞって操作することになる。
 また、1つの映像に複数のパスを設定したり、他の映像にジャンプしたり、複数の映像を同期再生したりすることも可能である。制作されたインタラクティブビデオは、Webブラウザのみで再生できる。
 このシリーズには、児童・生徒でも制作できるくらい簡便な操作のソフトや、制作したコンテンツを管理するドラッグモーションアーカイブシステムも用意されている。
*動作軌跡を曲線化したもの。その曲線をなぞって操作する。

(2) 教育機関の概要
   東京都台東区立忍岡中学校 全校生徒 609名。
 情報環境は、コンピュータ室・職員室・図書室には有線LAN、普通教室には無線
LANが構築され、インターネットにはCATVで接続されている。ネットワークの配線は、すべて教師や生徒による手作りという情報教育に対して非常に積極的な学校である。

(3) 活用目的
   保健体育の器械運動(マット運動)に本システムを活用することで、自己の技能を鏡的に見ることができるようになり、自己の課題の明確化、学習への興味の向上を図る。また、インタラクティブな機能を利用して模範演技を見ることで、マット運動の特性を効率よく理解する。

(4) 活用概要・対象者
   保健体育:単元「器械運動・マット運動」 1年生 33名。

(5) 実践内容
   本実践は、マット運動の倒立前転・とび前転の練習を行う授業である。体育館には、
PC、タッチパネル機能がついた50インチの大画面ディスプレイ、ビデオカメラ、本ソフトウェアの研究試作版が配置された(図)。

 
図・体育館内の機器構成図
 
 授業では、まず、個人の倒立前転の演技をビデオカメラで撮影し、コンピュータに取り込んだ。教師はその映像をその場でインタラクティブビデオに加工して、生徒に見せるという授業展開であった。
 コンピュータ教室で体育の授業をするのとは異なり、この実践のように実技とコンピュータによる解説を同一授業時間内で行えることの意義は大きいと考えられる。
 インタラクティブビデオに加工するには、ドラッグするパスを映像上に追加することになる。手順としては、まず、撮影した映像の中で、動作させる部分のIN点とOUT点を指定し、次に、ドラッグするパスを描画するだけである。ひとつの映像に複数の動作がある場合は、複数のパスを設定することも可能である。
 

写真1・体育館での利用の様子


写真2・動作のパスを指で直接操作


写真3・模範演技と生徒の演技の同期再生
 本ソフトウェアの特徴は、あたかも被写体を直接つかんで動かしているような感覚で操作できることである。そのためには、被写体の動きの軌跡に合わせてパスを描く必要がある。本実践授業ではタッチパネル式の大型ディスプレイを使用し、写真2のように画面を直接、指でなぞって操作できたため指示対象をより明確に生徒に提示できたと思われる。
 できあがったインタラクティブビデオは、すぐにWebブラウザ上で再生できる。また、ドラッグモーションアーカイブシステムを利用すればマーカーを描いて強調点を指示することもできる。さらに、遠隔地のユーザー間とも映像やマーカー等を共有できるため、遠隔教育への応用も可能である。効果的な提示方法の1つとして、事前に用意した模範演技と生徒の演技を同時に提示し、同期再生させた。こうすることで両者の違いを詳細に比較することができ、わかりやすい授業展開となった。
(6) 学習効果
   器械運動(マット運動)は、生徒にあまり人気がなく、不得意な生徒も多いとのことだが、少しの技能でもマスターできると充実感は得られる。
 学習者の反応には、次のような意見があった。
 「パソコンは画面が大きかったし、お手本を指でさわって進ませると画像も進んでいくのには驚いた。今までよくわからなかった自分のマット運動の姿がよくわかって、変えるべきところもよくわかった。」
 「ああゆう風に見てみると、自分でもわからない所も気づくからいいと思った。」
 本システムを活用することで、学習への興味が向上し、自己の課題を明確にさせることができた。

(7) 利用可能な活動と利用上の留意点
   本実践では、大型のディスプレイやビデオカメラが使用されたが、ノートパソコンと
USBカメラ等で撮影すれば、可搬性も高くなり、屋外等、多くの場面で活用できるようになる。また、タッチパネル式のタブレットPC等を用いれば、今回のように画面を指で触れながら操作することができ、こうした携帯型機器の活用が期待される。
 利用可能な活動としては、体育では、バスケットボールのフォーメーション、総合的な学習の時間、社会の地理、英語等のアイデアが出された。その他にもアイデア次第で多くの教科・単元で利用可能と思われる。また、生徒自身でも容易に作成できるため、プレゼンテーション等にも活用できる。

(8) 報告者
   メディア教育開発センター助教授 近藤 智嗣

(9) 資料提供
   NTTアドバンステクノロジ株式会社 http://www.dragri-fan.com
 機器型名 DRAGRI

※本実践授業は、平成13年1月11日に東京都台東区立忍岡中学校の滝田修教諭により行われた。本報告は、平成15年1月24日に、本実践授業の全体的なコーディネートをされた同校の前田光男教諭、本ソフトウェアの開発元であるNTTアドバンステクノロジ、NTT東日本に取材を行って記述したものである。