1.状況調査の概要
松 田  實

 地域の視聴覚センター・ライブラリーでは、地域映像教材を制作し保有しているが、どの程度保有しているか、どんな内容の地域映像教材が、どのように利用されているか、その保存についてどんな配慮をしているか、著作権処理はどうしているか、地域映像教材をアーカイブ化して共用する可能性はないか、全国の視聴覚センター・ライブラリーのうち、21本以上の自作教材を保有している視聴覚センター・ライブラリー(平成13年11月現在)203施設を対象にアンケート調査を実施した。そのうち4施設を訪問して、実態を視察するとともに、関係職員からの聞き取り調査を行った。


1.状況調査について

 今回のアンケート調査対象となった144の視聴覚センター・ライブラリーからは、予想を上回る11,838本(1施設平均82.3本)という保有状況が報告されてきた。
 内容的には、地域の生活文化に関するものが1,454本とおよそ13%、地域の産業と伝統工芸を合わせると1,380本、およそ11%を超える地域映像資料が保有されていた。
 今回の地域映像教材の分類方法は、平成8年に実施した調査(「地域映像データ検索システムの評価と課題」)の分類法を採用したが、その他が5,000本を超えてしまい、今後、分類法の再検討が必要になろう。詳しい分析考察は、各項に譲るとして、これらの地域映像教材は、すべてその地域の視聴覚センター・ライブラリーの職員、あるいは視聴覚教育関係者の協力のもとに自作されたもので、長年にわたり蓄積してきたものである。
 これらの地域映像教材は、多様なメディアで作成されてはいるが、VHS方式のビデオが圧倒的で9,063本を占めていた。しかし、16ミリやスライドなどのフィルムも予想以上に多かった。
 また、数こそ少ないが、オープン・Uマチック・ベータマックス等のビデオもあり、これらはかなり前の映像を記録しているだけに、貴重な内容と判断したものは、早急に保存や利用しやすいメディアへの変換が今後の課題であろう。
 地域映像教材の状態については、80%が利用に耐える状況にあると回答しているが、状態の悪化を訴えているものもでてきており、今後次第に増加するものと思われるが、複製保存等の費用を予算化しているところは少ない。
 今回の調査の伏線となっている、各視聴覚センター・ライブラリーの地域映像教材をデジタル化し、アーカイブ化することについての意見は、大半がその有効性を認めて賛意を表しているが、現実的には予算の問題、著作権の問題が解決できれば、との条件付き賛成がかなりあった。

2.訪問調査について
   
 訪問調査としては、回答をいただいた視聴覚センター・ライブラリーの中から、山形県北村山視聴覚教育センター・京都市視聴覚センター・兵庫県篠山市視聴覚ライブラリー・鹿児島県立図書館視聴覚課(県立視聴覚センター)の4施設を訪問し、地域映像教材に関して状況を視察し、担当者の意見等の聴取を行った。
 今回の訪問調査を通してわかったことは、地域映像教材には、2つの性格と3つの内容があるということである。

<2つの性格> 地域映像作品 1作品としてテーマを持ちストーリー性のある映像
  地域映像資料 カットやシークエンスのねらいをもつ資料性の高い映像
<3つの内容> 自地域のみで利用価値のある映像
  自地域はもちろん、他地域でも十分利用価値のある映像
  記録することに価値のある映像

 それは、意図的に制作しているケース、地域や学校の要請に基づいて制作されたケースと多様であった。詳しい状況は後述するとして、訪問調査の項では、それぞれの視聴覚センター・ライブラリーの地域映像教材の保存状況・制作・利用等の特徴と、アーカイブ化についての意見をまとめた。


山形県北村山視聴覚教育センター  当初は、職員が直接制作していたが、講習を通じて育った地域のビデオボランティアが中心となって「地域づくり」「ふるさとづくり」を目的に、古くから伝わる行事等をビデオ化している。また、貴重な作品は、DVD化して保存している。しかし、制作については、ビデオボランティアの高齢化等による問題も出てきている。
京都市視聴覚センター  教職員を中心とした自主サークルを中心に学校向け教材を制作しているが、地域の方々によるグループも組織され、一般対象の地域映像も制作され始めている。
 学校向け地域映像教材が多いので、他地域でも十分に活用できるが、規約により相互貸し出しはできない状態である。
兵庫県篠山市視聴覚ライブラリー  職員が直接、制作にあたり、地域をテーマにしたドキュメンタリーやニュース、学校向け教材を制作し、ビデオテープを定期的に公的施設に配布するとともに、地域の行事や出来事で、即時性が求められるものは、インターネットを通じて全施設および家庭に配信することに力を注いでいる。
鹿児島県立図書館視聴覚課
  (県立視聴覚センター)
 6か年計画で、市町村に取材希望をとり、課員が自然や文化に関する映像を収集して「かごしま映像百科」を完成させている。
 さらに、映像や静止画をデジタルコンテンツ化した「映像百科素材データベース」のCD−ROM も制作している。

 それぞれの施設の状況をまとめると、各視聴覚センター・ライブラリーのスタンスがそれぞれ違うという現状であった。

(1)長期計画に基づく計画的な収集と蓄積
 地域映像教材を、計画的に収集・蓄積して、データベースとして構築するとともに、動画や静止画による素材データベースをCD−ROM化し、いつでも利用できるようにする。
 数か年の計画を立てて、地域映像教材を制作・蓄積し、利用に供する保存優先の考え方。


(2)利用を優先した制作の結果としての蓄積保存
 地域の残したい自然や文化等を、随時、地域映像教材として制作して、保存価値があると判断したものを選んで蓄積する。


(3)即時性を重視し、利用優先の考え方
 学校の利用に基づいた制作と、地域の行事や出来事等をドキュメント化、あるいはニュースを即ビデオ化して、公的施設に配布、あるいはインターネットで配信することを優先する考え方。

 また、制作の方法についても違いがあった。

(1)視聴覚センター・ライブラリーの職員が制作する
(2)地域のビデオボランティア等の協力を得て制作する。
(3)自主サークル等に制作を委託する。

 等で、保存という消極的な考え方に止まらず、よい状態で提供するためのメディア変換を考えていたり、逆に、現状ではそう大きな問題はないとするというように、その地域の状況により、保存の方法は大きく異なっていたが、制作についても、職員が制作作業を行う、サークルやボランティアの協力で行う、委託するなどさまざまであった。
 また、前述したが、地域映像といっても、ストーリー性のある作品と、あくまでも地域の映像素材として制作しているものがあり、今回の4施設でも2つに分かれていた。
 アーカイブ化については、システムは別として、すでに行っているところもあるが、やはり、地域の費用で作った教材は地域に還元することを最優先にする考え方も根強い。
 いずれの訪問先も、地域映像教材の制作提供には積極的に取り組んでおり、アーカイブ化による地域映像教材共用の方策を早急に検討する時期にきていると思われる。